【目的】新型コロナウイルス感染症をはじめとする重症感染症に対する新しい治療薬の開発が急務となっている。これまでに、病原体の増殖や、免疫細胞の過剰な活性化を抑制する優れた治療薬が開発されてきたが、重症化病態や死亡率の完全な低減には至っていない。そこで我々は、血管透過性を抑制する新たな機序の治療薬を開発しようと考えた。本研究では、血管内皮細胞特異的に発現し、血管透過性を抑制するタンパク質Roundabout 4(Robo4)に着目し、Robo4の発現を促進する戦略で、重症感染症を治療できるかを検討した。
【方法】CAG-stopflox-mRobo4マウスをマイクロインジェクション法により作製し、CDH5-Cre/ERT2マウスと交配させることで、タモキシフェン誘導性内皮細胞特異的Robo4過剰発現マウス(Robo4iECマウス)を作製した。Robo4プロモーターによりルシフェラーゼを発現する内皮細胞株を用いて、LoPac化合物ライブラリーをスクリーニングした。低分子化合物、リガンド、siRNA等で処理した血管内皮細胞やマウス臓器におけるRobo4発現量を定量的PCRにより解析した。リポ多糖(LPS)投与マウスの生存率を解析し、同マウスの血管透過性をエバンスブルー漏出量により評価した。新型コロナウイルスを感染させた気道チップ(血管内皮細胞と気道上皮細胞の共培養系)またはマウスを用いて、血管内皮バリア機能と生存率をそれぞれ解析した。
【結果・考察】マウスにおける血管内皮細胞特異的なRobo4の過剰発現は、LPS処理マウスの血管透過性と死亡率を抑制した。化合物スクリーニングを用いたシグナル伝達系の解析から、Robo4の発現が、ALK5-SMAD2/3とALK1-SMAD1/5の2つのシグナル伝達系により正と負に制御されることが示された。さらにALK1阻害剤は、マウスの肺におけるRobo4発現の促進を介して血管透過性を抑制し、LPS処理マウスの死亡率を低下させた。さらに、ALK1阻害剤は、新型コロナウイルスが誘導する血管内皮バリアの破綻とマウスの死亡を抑制した。
【結論】Robo4発現の促進は、重症感染症における血管透過性と死亡率を抑制する効果的な戦略であることが示された。Robo4発現を促進する化合物は、重症感染症に対する新たな治療薬となることが期待される。
【参考文献】Morita M, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2023; 120(3):e2213317120.