新薬研究開発の国際競争力の低下などに対応して、本邦でも、創薬シーズを製薬企業のみならずアカデミアにも求める気運が高まってきた。「有効な医薬品を創り、患者さんに届ける」ことは医療人共通の願いでもあり、その気運にのり、アカデミアでの創薬は推進されてきたといえる。しかし、2014年度には20件あった医師主導治験の初回治験届け出数は、2019年度~2021年度には平均で9件を割り込んでおり、アカデミア発の創薬が活性化しているとは推定しにくい。一般に、創薬研究プロセスは、生体分子の新しい機能や病態における役割などの情報から創薬標的を同定する基礎研究と、同定した創薬標的に適切に作用する物質を開発化合物にまで最適化する応用研究に分類されるが、「アカデミア創薬」では、この基礎研究から応用研究まで、また可能であればその後の臨床開発も加え、一貫してアカデミア研究者が実施することになる。アカデミア基礎研究者の中には、自身の画期的な基礎的発見が、ただちに有望な創薬シーズとなるものと考えたが、その時に、創薬のためには不足する情報がたくさんあることを初めて知り、そのことこそ「死の谷(The Valley of Death)」というのだと思ってしまった研究者も多いものと想像される。医薬品開発は、新規薬剤の発見と合成、新規物質の有効性と安全性の研究に始まり、各種非臨床・臨床試験の計画・実施・解析、製造販売承認申請準備・申請、と多種多様で長い道のりである。本邦のアカデミア発医薬品開発を活性化するためには、これらの道程を一人で完全走破するアントレプレナーを育てることも重要ではあるが、医学研究者個々の研究リテラシー向上なく、スーパーアントレプレナーを育てるだけでは、全体としての医薬品開発力向上を見込むことは難しい。少なくとも、創薬研究に関わるすべての医学研究者が、医薬品開発の全景やその困難さを理解したうえで、自らの研究の、「医薬品開発の上での位置付け」を十分に理解し、その開発を遂行するために不足するmissing pieceを埋めるパートナーとうまく協業を進めていく術を知ることが、今後長い目で見た際に、アカデミア発の創薬を育てるために重要ではないかと考えられる。