がん疑い患者の初診から薬剤師の処方箋受取りまでには、1) 面接・身体診察による病状把握と初回患者説明、2) 急変対応入院ベッドの確保、3)血液・画像・内視鏡・生検検査、4) 診察・検査結果の統合による診断・治療方針の確定と患者説明、5) 入院/外来化学療法室ベッドの確保、6) 治療薬の処方と多くのステップがある。担当する診療科が一義的に指定され、診療体制が確立している5大がんではこれらのステップは円滑に進む。しかし、希少がん(10万人当たりの罹患率6人未満)の薬物療法では、1) 初診を受ける診療科の決定が困難、2) 確定診断が困難、3) がん遺伝子プロファイリング検査が必要、4) 薬物療法の担当診療科の選択、5) 乏しい薬剤の使用経験、6) 保険外診療(治験など)などの問題点があり、その都度診療体制をカスタマイズしなければならない。 がん薬物療法における薬剤師の役割には、1) レジメン妥当性の評価、2) 薬物投与量の提案、3) 患者説明の補助、4) 薬剤の調剤、5)モニタリングなど(薬剤師法第25条の二2019、第十四改訂調剤指針増補版 2022)があるが、希少がんの場合には数々のハードルがある。1) 悪性中皮腫など一部の希少がんを除いて臨床試験はほとんどなく、そのレジメンが妥当であるという根拠に乏しい。がん遺伝子プロファイリング検査でdruggableな遺伝子変異が見つかっても、認可されていない薬剤では添付文書やインタビューフォームのような確立した情報源はない。薬剤選択には腫瘍生物学に基づく作用機序の理解が不可欠である。2) 症例は小児から後期高齢者まで幅があり、前治療歴や臓器障害の程度も様々であるため、安全性を確保しながら効果が期待できる初回薬物投与量を決めるのは難しい。3) 症例の希少性・特殊性から、治療の奏効率、奏効期間、2次治療、生存期間などの予見性が低く、Advanced Care Planningに困難を来す。4) 希少がんは初めて経験することが多く、薬剤の調剤・調製の際に薬剤師1年生と同様に現場でその疾患についての猛勉強が必要となる。5) 使われる薬剤の種類は極めて広範囲にわたるため、有害事象のモニタリングにはそれまでに蓄積した知識・経験を総動員する必要がある。希少がんの診療過程を参加者で共有し、ハードルを越えるための第一歩としたい。