心不全の薬物治療は、この30年ほどの間に現在臨床で頻用されているレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬やβ遮断薬等のエビデンスが確立され、それらの薬剤は標準治療薬として広く認知されるに至った。しかし、一概に心不全といえども、心不全には急性・慢性といった古典的な病態区分の他に、心機能や血行動態等に基づく病態区別もあり、それぞれの病態に応じた治療法の選択が重視されてきた。その中でも、左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)と左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)の間でそれらの病因・病態が大きく異なっていることが明らかとなった。さらに、心不全の薬物治療の臨床的エビデンスはHFrEFでの検証がHFpEFより常に先行して行われてきたが、HFrEFで過去に臨床的有用性が実証された従来薬剤の多くがHFpEFにおいては臨床的有用性が検出されなかったため、HFpEFに対する薬物療法は長年未確立であった。そのような中、近年ではHFrEFに対する複数の新規心不全治療薬が使用可能となったことに加え、それらの一部の薬剤においては難攻不落とされてきたHFpEFに対しても臨床的有用性が示されたことから、心不全薬物治療は大きなパラダイムシフトの時代を迎えている。本講演では、近年のエビデンスを中心とした心不全薬物治療の新たな展開について議論したい。