脂質異常症とは血液中の脂質濃度が異常値を示す疾患であり、その診断・治療の目的は動脈硬化性疾患の予防である。フラミンガム心臓研究が開始され、高血圧、喫煙などとともに、高コレステロール血症が冠動脈疾患の危険因子として1957年に報告されている。1963年にはCirculatory Risk in Communities Study (CIRCS)で低比重リポ蛋白質コレステロール(low density lipoprotein cholesterol: LDL-C)と冠動脈疾患の関係が示され、LDL-C高値が動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease: ASCVD)の危険因子であることはエビデンスとして確立している。冠動脈疾患の予防にはまずLDL-Cを低下させることが重要となる。1980年代になり、高コレステロール血症の治療薬であるHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が開発され、高コレステロール血症の治療介入としてスタチンを用いた複数の臨床試験がLDL-C低下とともにASCVDの一次予防、二次予防において冠動脈疾患発症リスクを低減させるエビデンスを示している。しかし、それだけでは冠動脈疾患の予防は不十分であり残余リスクの解明が必要とされている。
2022年に動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂され、トリグリセライドに随時(非空腹時)の基準値ができ、随時採血で175mg/dL以上で脂質異常と判断されるようになった。スタチンの残余リスクのひとつであるトリグリセライドは今後の効果的な治療方法の開発が期待される。また、糖尿病におけるLDLコレステロールの管理目標値が変更となり、糖尿病合併症があれば一次予防でも100mg/dL未満、二次予防の場合は70mg/dL未満とそれぞれ脂質異常の治療を強化するような改訂となった。このガイドラインの改訂において、一次予防、二次予防における薬物治療ではスタチンを中心とし「the lower, the better」であることがより明確にされた。さらに、小腸コレステロールトランスポーターの併用も推奨される。家族性高コレステロール血症では、多剤併用しても管理目標値の達成が不十分な場合には、Proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 (PCSK9)阻害やMicrosomal triglyceride transfer protein(MTP)阻害薬が使用でき心血管イベントを抑制されることが示唆されている。本セッションでは、脂質代謝異常と循環器疾患に焦点を当てて、安全性、有用性を含めた臨床薬理学的視点から脂質異常治療薬の最前線を紹介する。