タクロリムスは臓器移植後の拒絶反応抑制のキードラッグである。タクロリムスの治療域は狭く、タクロリムス薬物動態の個体間・個体内変動は大きいことから、薬物血中濃度モニタリング(TDM) に基づく投与量調節が必須となる。さらに、タクロリムスの精密な投与設計と最適治療につなげるためには、ファーマコメトリクスを用いた薬物動態把握と予測が重要となる。
個別化投与設計に用いられるファーマコメトリクス手法としては、従来から活用されている母集団薬物動態解析など、TDMデータを使用してモデルを構築するトップダウンアプローチと、ボトムアップアプローチである生理学的薬物動態(PBPK)モデル解析がある。PBPKモデルでは、各臓器をコンパートメントとして血流で繋ぎ、仮想的な身体を表現したモデルを用い、患者集団の身体的特徴や血流速度、薬物代謝酵素の発現量等の生体情報と、薬物固有の物理学的パラメータや、in vitroで測定された薬物代謝速度パラメータ等に基づいて生体内での薬物血中濃度の予測を行う。実臨床においてはボトムアップアプローチの手法をベースにトップダウンアプローチを組み合わせた、いわゆるミドルアウトアプローチを用いることで、両解析の欠点を補いつつ、より詳細なモデル化が可能となる。PBPKモデルの利点としては、生理学的パラメータの変化が薬物動態に与える影響を定量的に評価できる点や、臨床データが不足する場合でも実験データに基づきモデルの構築が可能である点が挙げられる。
我々はこれまで、生体肝移植患者における移植後の肝再生やCYP3A5の遺伝子多型が移植後のタクロリムスの薬物動態に与える影響についてPBPKモデルを用いた評価(CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol. 8(8):587-595, 2019)や、腎移植患者におけるタクロリムスのPBPKモデルを作成し、肝移植患者へと外挿することにより、移植臓器による薬物動態の違いについて解析を行ってきた(Drug Metab Pharmacokinet. 42:100423, 2022)。
本シンポジウムでは、これらのPBPKモデルを用いたタクロリムスの解析事例を紹介しながら、個別化投与設計へのPBPKモデルの有用性について考察したい。