アンチ・ドーピング規則では、競技力を向上させうること、健康上の危険性を及ぼしうること、その使用がスポーツの精神に反すること、の3つを判断基準としてこのうち2つを満たす場合、禁止表国際基準への掲載が検討されている。その結果、最新の禁止表国際基準では11の物質カテゴリと3の方法カテゴリが掲載されている。一方、老若男女や障がい者を含め、すべての人々がスポーツに親しむ現代においては、疾患を有するために薬物治療を受けながらスポーツを行うこともある。したがって、特に競技スポーツに参加する場合には、アンチ・ドーピングの見地から、禁止表国際基準に掲載される物質や方法を含む薬物治療には注意する必要がある。気管支喘息における交感神経β2作用薬や糖尿病におけるインスリン、乳がん患者での抗エストロゲン薬などがその例である。 薬物使用が治療として必要不可欠な場合、特例としてその薬物の使用を認めるための「治療使用特例」の手続きが必要となることがある。付与のための条件として、診断された疾患を治療するために必要であること、治療により通常の健康状態以上に追加的な競技力を向上させないこと、適応であり、代替の治療法が存在しないこと、禁止物質又は方法の使用後に必要となったものでないことを満たす必要がある。 ドーピングとして使用される場合の薬物の投与量は通常使用量をはるかに超えることも多いとされ、標準的な治療が行われれば、多くは治療使用特例が付与される。しかし、利尿剤を投与される高血圧症患者が減量を伴うレスリングの競技に参加する場合や、性転換により男性ホルモンの投与が行われる場合など、標準的な治療であっても、スポーツ特性との関係から議論を要することがある。 このような話題は、競技力が高い一部のアスリートにのみ適用すべきことのように捉えがちであるが、アンチ・ドーピングの主たる目的は、健全なスポーツを守ることであるため、スポーツに携わる全ての人が関わるものである。そこで、アンチ・ドーピングの見地から治療薬とスポーツの関係について考察していくこととする。