【背景と目的】
高い細胞殺傷性があることから抗がん薬として頻用されるドキソルビシン(Dox)は、心毒性による心不全発症や治療中断の問題がある.細胞の増殖や骨格変化を制御する小分子量Gタンパク質RhoA, Rac1の心臓における活性化は、心不全に関連し、Dox心毒性の機序の一つとして考えられる.以前より我々はコルヒチンの、動脈硬化やCOVID-19重症化などの炎症性疾患に対する効果を基礎・臨床研究で検討しており、本研究ではDox心筋細胞障害に対する効果を細胞実験で検討し、コルヒチンのDox心毒性抑制の可能性を探る.
【方法】 
培養細胞はラット心筋芽細胞H9c2を用いた.使用濃度決定のため、24時間Dox処置による用量生存曲線およびF-アクチンの免疫蛍光染色を行った.DoxによるRhoA, Rac1の活性化とコルヒチンの抑制効果は細胞膜分画ウエスタンブロッティングおよび免疫蛍光染色で評価した.Doxによる心筋細胞の器質的変化とコルヒチン処置効果を筋原線維構成タンパク質αアクチニンの配向性で確認した.
【結果】
Dox濃度1x10-6Mは、24時間Dox用量生存曲線での生存率61.7%であり、F-アクチンが減少し始める濃度であったので、本濃度を用いた.Dox処置はRhoA, Rac1を活性化し、コルヒチン1x10-8M前投与はそれらを抑制した.Doxによりαアクチニンはその配向性が失われたが、コルヒチン前処置はそれを防止した.
【結論】
コルヒチンはドキソルビシンによる小分子Gタンパク質活性化、心筋障害を軽減でき、ドキソルビシン心毒性の予防・治療法として有望である.