超高齢化社会を迎え、「心不全パンデミック時代」と言われ社会問題となっている。近年新たな心不全治療薬が相次いで臨床応用され注目を集めている。その一つが糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬である。2015年に糖尿病患者に対する心血管イベント抑制効果が初めて報告され、2019年には糖尿病の有無に関わらず左室駆出率(LVEF)の低下した慢性心不全患者の心血管イベントを抑制することが報告され、糖尿病治療薬としてだけではなく、新たな心不全治療薬となることが示された。そして2022年には、これまで確立した治療法のなかったLVEFの保たれた慢性心不全患者において心血管イベントを抑制することが報告され、更に注目を集めている。心不全患者は入退院を繰り返すことにより徐々に身体機能が低下することが知られている。特に高齢者においては心不全入院をすることで、身体機能のみならず認知機能も低下し、自宅への退院が困難となるため、心不全入院の予防は予後改善のみならずQOL維持のためにも重要である。しかし日本糖尿病学会から、75歳以上の高齢者、あるいはそれ以下の年齢でも老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)を伴っているような症例は、ケトアシドーシス等のリスクがあるためSGLT2阻害薬は慎重投与と注意喚起がされており、本邦での高齢者への使用経験はまだまだ少ない。今回我々は心不全入院中にSGLT2阻害薬を導入した88症例を後ろ向きに検討した。平均年齢は69±13歳、BMIは24±5、LVEFは33±15%(うちLVEF≧50%は13名、15%)、糖尿病合併は48人(55%)であった。59人(67%)が65歳以上の高齢者であり、33人(37%)が75歳以上の後期高齢者であった。BMI18.5未満の低体重症例は11人(23%)であった。入院およびその後の外来経過中にケトアシドーシスは認めなかった。経過中にSGLT2阻害薬を中止した症例は3人(3%、うち低血糖が1人(1%)、尿路感染症が2人(2%))のみであった。高齢者や低体重の心不全症例においても安全にSGLT2阻害薬を導入可能であった。