【目的】大腸癌化学療法時の急性腎障害発症によって、抗癌剤の減量や中止を余儀なくされ、適切な癌治療を受けることが困難な状況に至ることが問題となっており、予後への影響が懸念されている。本研究では、大腸癌化学療法の一つであるS-1とオキサリプラチン (L-OHP) を併用するSOX療法に着目し、急性腎障害発症時における抗癌剤体内動態への影響について、母集団薬物動態解析を行い、癌治療の予後に関わる因子と化学療法完遂に有用な用量基準について、大腸癌モデルラットを用いて検討した。
【方法】Wistar系雄性ラットに1.2-ジメチルヒドラジンを週3回隔日で皮下投与し、1%デキストラン溶液を1週間摂取させたものを大腸癌モデルラットとして実験に用いた。その後、腎動静脈を30または60分間クランプを用いて虚血再灌流を行い、腎障害モデルラットを作製した。KDIGO診療ガイドラインによるAKI診断基準と病期分類に従って腎障害モデルラットをStage1から3に分類した。対照群および腎障害群(Stage1-3)に、S-1(テガフール:2 mg/kg)を経口、L-OHP(5 mg/kg)を急速静脈内投与し、所定の時間に血液、尿サンプルを採取した。試料中の白金、及び薬物濃度をLC-MS/MSにて、血清クレアチニン(sCr)値はラボアッセイTMクレアチニンを用いて測定した。これらのデータについて、Phoenix NLMETMver8.3を使用して母集団薬物動態解析を行い、sCr値との関連性を検討した。
【結果・考察】テガフールの最高血漿中濃度到達時間は、腎障害群で対照群に対し約2.2倍延長した。白金の血漿中濃度時間曲線下面積 (AUC0→24h)は腎障害の程度に応じて上昇する傾向が見られ(対照:8.8±2.1、Stage1:18.6±8.7、 Stage2:33.2±42.3、 Stage3:48.9±13.8 μg*hr/mL)、累積尿中排泄量は低下した。母集団薬物動態解析から白金の分布容積およびクリアランスとsCr値との間に相関が認められた(各々、r=-0.697(p<0.01)、 r=-0.672(p<0.05))。
【結論】急性腎障害発症時の大腸癌患者においてSOX療法を施行する際、癌治療を適切に行うためには、sCr値を活用した至適用量設定が必要であることが示唆された。