【目的】腫瘍抑制遺伝子CYLDの発現低下は、口腔扁平上皮癌(OSCC)患者の不良な生命予後の要因となるが、CYLD発現低下・予後不良症例に対する有効な治療法は未だ存在しない。本研究では、CYLD発現低下OSCC患者に対する新規治療法を確立することを目的とし、分子病態解析に基づく治療標的分子の同定を試みた。
【方法】siRNA導入により口腔癌細胞のCYLD発現を低下させ、プロテオーム解析によるタンパク質発現の網羅的解析を行い、CYLD発現低下時の悪性化の要因となる細胞シグナルの同定を試みた。同定されたシグナルを阻害する分子標的薬の腫瘍抑制効果を、細胞生存率や上皮間葉転換(EMT)様変化への影響、さらに異種移植モデルマウスを用いて評価した。
【結果・考察】CYLD発現低下細胞は、現在OSCCに適応のある抗癌剤(cisplatin、5-FUなど)に対して耐性を示し、細胞遊走能亢進等の結果からEMT様の形質変化を示した。プロテオーム解析の結果、CYLD発現低下細胞において上皮成長因子受容体(EGFR)やその下流のシグナルが過剰に活性化していることが明らかとなった。そこで、EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)であるgefitinibを添加すると、CYLD発現低下細胞の細胞生存率が著しく低下し、併せてEMT様変化も同時に抑制された。さらに、CYLD発現低下細胞を移植した異種移植モデルマウスにおいても、gefitinib投与により腫瘍体積の著しい縮小が確認され、結果として生存期間が有意に延長した。
【結論】CYLD発現低下症例は、抗癌剤耐性や浸潤・転移により生命予後不良となるが、新規治療薬としてEGFR-TKIが有効である可能性が示された。