【背景】がんゲノムプロファイリング検査では、次世代シークエンス技術によって、腫瘍組織や正常細胞の遺伝子プロファイリングを行い、分子標的治療薬の適応判断や臨床試験・治験の探索を行う。がんゲノムプロファイリング検査では、BRAF V600E(バリンVのグルタミン酸Eへの1アミノ酸置換)に限らず、V600K、V600D、V600Rのほか、キナーゼ活性の低いClass 2やClass 3バリアントが検出される。がんゲノムプロファイリング検査で検出される種々のBRAFバリアントをもとにBRAF阻害薬の適応判断が議論される。
【目的】大腸癌のBRAF阻害薬適応判断におけるがん遺伝子プロファイリング検査の有用性と限界を検討する。
【方法】当施設でがんゲノムプロファイリング検査を実施した大腸癌症例で、BRAFに関するClass 1以外のバリアント検出と限界を経験した症例を提示し、目的に挙げた事項を検証する。
【結果・考察】大腸癌患者を対象に当院でがんゲノムプロファイル検査を実施した33症例中BRAFバリアントは3例(9.1 %)で検出された。内訳は、rearrangement、D594N、D594Gで各1例であった。Class 1バリアントの検出はなかった。BRAF阻害薬の適応と判断された症例はなかった。PCR-rSSO法を測定原理とするコンパニオン診断薬ではBRAF V600Eが検出された一方で、がんゲノムプロファイリング検査ではBRAFバリアントが検出されない例もあった。腫瘍組織中のBRAFバリアント頻度が、がんゲノムプロファイリング検査では検出限界以下であったことなどが考えられた。
【まとめ】大腸癌でのBRAF阻害薬の効能・効果の根拠は、BRAF V600Eを有する治癒切除不能な進行又は再発の結腸・直腸癌患者を対象としたBEACON CRC試験である。大腸癌症例では、仮にnon-V600バリアントが検出されてもBRAF阻害薬の推奨にはなりにくいと考えられる。大腸癌でのnon-V600バリアントの情報は、抗EGFR抗体薬などへの治療抵抗性の予測因子として活用できる可能性がある。本演題ではこれらの実例を提示し、BRAFバリアント検出に関するがんゲノムプロファイリング検査とコンパニオン診断薬の特性や限界に応じた結果解釈についても議論する。