【目的】
レムデシビル(RDV)はCOVID-19感染症治療における主要な薬剤である。RDVの活性代謝物であるヌクレオシド類似体(GS-441524)は腎機能がクリアランスの共変量であり、大きな個体間変動が存在する1)。In vitroにおけるSARS-CoV2感染細胞に対するRDV及びGS-441524のEC50は対象の細胞により大きな差があり、RDVからGS-441524への代謝経路はin vitroと異なる2)。したがって、EC50の実臨床への応用は検討の余地がある。本研究は、RDVの薬効とGS-441524至適血中濃度の関係を検討した。
【方法】
済生会二日市病院にて2020年5月から2021年8月の間にCOVID-19肺炎と診断され、RDVを3日以上投与した成人(≧15歳)患者を対象に後ろ向き観察研究を実施した。投与3日目のGS-441524トラフ血中濃度をLC-MS/MSで測定した。連続変数は中央値と四分位範囲(IQR)とした。主要アウトカムの症状改善はNIAID Oridinal Scale(NIAID-OS)≦3に至る日数と定義した。トラフ血中濃度で層別化したアウトカムの生存曲線をGray検定にて評価し、トラフ血中濃度のカットオフ値を探索した。トラフ血中濃度に対するBMIと腎機能影響を共分散分析で評価した。本研究は、済生会二日市病院倫理委員会(407)及び福岡大学倫理委員会(21-12-M1)の承認を得て行った。
【結果・考察】
対象症例59例[年齢:57.0歳(IQR:47.0-77.0)、eGFR:72.1mL/min/1.73m2(IQR:57.6-79.3)、BMI:24.3kg/m2(IQR:21.8-27.7)]のGS-441524トラフ血中濃度は57.1ng/mL(IQR:37.3-124.5)であった。トラフ血中濃度≧70ng/mLが主要アウトカムの早期到達と有意に関連した(p=0.047)。COVID-19感染症の予後不良因子である年齢、eGFR、BMIで層別化しても主要アウトカムの到達の間に有意な差は認めず、目標トラフ血中濃度≧70ng/mLの有用性が示唆された。共分散分析にてBMI≧25kg/m2のトラフ血中濃度は腎機能で調整しても有意に低かった(least square means: 80.3 vs 53.9ng/mL, p=0.041)。腎機能に加えてBMIがトラフ血中濃度の決定因子であることが示唆された。
【結論】
COVID-19肺炎におけるGS-441524の目標トラフ血中濃度を明らかにした。トラフ血中濃度70ng/mLを指標とする、腎機能とBMIを考慮した投与設計は症状改善の短縮が期待できる。
【参考文献】
1) CPT Pharmacometrics Syst Pharmacol 2022; 11, 1, 94-103
2) ACS Med Chem Lett 2020; 11, 7, 1361-1366