【目的】
副腎皮質ホルモン剤の投与は、内因性副腎皮質ホルモン分泌の日内変動に合わせて、朝方に行われることが多い。一方、血液中の白血球分画にも日内変動が認められ、リンパ球数は夜間に高値となる。従って、夜間の方が日中よりもリンパ球が臓器に浸潤しやすく、免疫反応が大きくなると思われる。事実、これまでの基礎研究より、副腎皮質ステロイド剤の休息期投与は急性拒絶反応予防効果が大であることが報告されている。そこで本研究は、肝移植後の急性拒絶反応発現率の減少を指標とし、メチルプレドニゾロン(mPSL)の夜投与の有効性ついて検証することを目的とした。
【方法】
2014年10月から2022年3月31日までに、自治医科大学にて生体肝移植術が実施された15歳未満の小児患者を対象とした。代諾者等からの同意取得後、乱数表を用いてmPSL朝(8時~10時)投与群あるいはmPSL夜(18時~20時)投与群のいずれかに無作為に割付けた。有効性の評価は急性拒絶反応の出現率が高い手術後14日目まで、安全性の評価は手術後から初回退院までとした。手術後15日目以降、朝投与群はそのまま朝投与を継続し、夜投与群は投与時刻を夜から朝へ移行した。タクロリムス等の併用薬および各種検査は通常の診療通りに行った。主要評価項目は手術後14日目までの急性拒絶発現率とした(UMIN000015793)。
【結果・考察】
期間中に60名から研究参加の同意が得られた。そのうち解析対象者は58名(朝投与群:30名、夜投与群:28名)であった。朝投与群は術後から退院時まで朝投与し、一方、夜投与群は術後から14日間は夜間投与し、その後は朝投与に変更した。手術後14日目までの急性拒絶反応出現例は、朝投与群で12名、夜投与群で4名であった(P<0.05 by Fisherの直説法)。手術前リツキシマブ投与例を除いたサブ解析では、朝投与群で22名中8名、夜投与群で23名中1名であった(P<0.01)。タクロリムスの血中濃度は、2群間とも同程度に調整された。移植手術後から退院までの期間において、細菌感染症およびサイトメガロウイルス感染の有無については、投与群の間で差を認めなかった。
【結語】
術後14日間mPSLの夜投与は、小児肝移植後の急性拒絶反応出現を抑制する有効な投与方法である。