【目的】免疫抑制薬であるエベロリムスは肝移植後4週以降に併用され、カルシニューリン阻害薬の減量が可能となることから腎障害発症率の低減が期待できる。エベロリムスは個体間・個体内変動が大きく治療域も狭いことから、薬物血中濃度モニタリング(TDM)を必要とするが、肝移植患者におけるエベロリムスの薬物動態に関する報告は乏しい。そこで、TDMデータを用いて成人肝移植患者におけるエベロリムスの母集団薬物動態(PPK)解析を行うとともに、作成した成人モデルの小児患者への外挿について検討した。
【方法】京都大学医学部附属病院で2018年3月から2020年12月の間にエベロリムスを新規に投与開始した肝移植患者を対象とした。日常診療で得られるエベロリムスのトラフ全血濃度測定値(ECLIA法)を使用し、PPK解析には非線形混合効果モデルプログラムNONMEMを用いた。本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果・考察】エベロリムスの薬物動態モデルの構築には、肝成人移植患者87名より得られた計937ポイントのトラフ血中濃度を使用した。1コンパートメントモデルを選択し、見かけのクリアランス(CL/F)および見かけの分布容積がそれぞれ体重の0.75乗、1乗に比例するアロメトリック式を採用した。CL/Fの共変量としてフルコナゾール併用、eGFR、性別が抽出された。さらに、TDMによる投与量調整結果を反映してエベロリムスの1日投与量がCLの共変量として検出された。共変量を考慮したシミュレーションの結果、成人肝移植患者では1回0.5mgを1日2回投与することで、エベロリムス血中濃度の中央値をほぼ治療域に収めることができた。また、ベイジアン法で推定した個々の患者のCL/Fとエベロリムス投与前のタクロリムスD/C比は中等度の相関を示した。作成したPPKモデルを用いて小児患者13名の血中濃度予測を行ったところ、おおむね成人と同程度の予測性が示されたが、2歳未満の1例では実測値が予測値よりも大きく低値を示した。
【結論】成人肝移植患者では1回0.5mgを1日2回投与することが初期量として適切であるが、エベロリムス投与前のタクロリムスD/C比を考慮することでさらに個別化が可能である。得られた成人PPKモデルは小児にも外挿可能であるが、乳児期の患者では成人と薬物動態が異なる可能性があるため注意を要する。