【目的】 エベロリムス(EVR)は肝移植後の免疫抑制薬として本邦での適応追加後使用頻度が増加しているが、未だ他の免疫抑制薬と比較して使用経験が少ない。EVRは肝代謝型の薬物であることから肝移植では移植臓器で代謝されるという特徴を有するが、EVRの初期投与量設定に用いる指標がなく速やかに目標血中濃度に到達させるのが難しい現状がある。これらの背景から当院での使用経験を明らかにするとともに、タクロリムス(Tac)の薬物動態に基づいたEVRの初期投与量設計の可能性を見いだすため、EVRとTacの薬物動態の相関関係を検討した。【方法】 対象は肝移植後施行後にEVRとTacを併用していた16例。各患者におけるEVR開始時年齢、性別、体重、移植後月数、開始用量、目標濃度到達までに用量変更を要した回数および到達までの日数、開始理由、併用免疫抑制薬について調査した。さらにEVRの投与量と血中濃度の相関、およびEVRとTacの薬物動態パラメーター(血中濃度(ng/mL)を1日投与量(mg/day)で除した比:C/D比)の相関について検討した。【結果・考察】 EVR開始時年齢は中央値17.5歳(2-66歳)、18歳未満の小児例は8例、18歳以上の成人例は8例、性別は男性10名、女性6名であった。EVRの開始時期は移植後中央値27.0ヶ月(1-229ヶ月)であったが、成人例で導入が早い傾向にあった。EVRの導入目的は免疫抑制療法強化が11例、ステロイドの副作用回避(軽減)が1例、その両目的を合わせた使用が4例であった。EVR投与開始から目標血中濃度達成までに要した期間は平均値±標準偏差40.1±51.9日であり、時間を要していた。EVRの1日投与量と血中濃度には相関関係を認めず、体重からEVRの用量設定を行うことは困難でありTDMの必要性が再認識された。一方で、EVRとTacのC/D比に相関関係を認めた(r=0.7472, p<0.001)。EVRはTac同様CYP3A4を主とした肝代謝型の薬物であり、バイオアベイラビリティが低いなど薬物動態が比較的類似しているためにC/D比が相関すると考えた。【結論】 肝移植症例におけるTacとEVRの薬物動態には相関関係があるため、TacのC/D比がEVR投与量設計の参考になると思われる。