【目的】
医薬品の安全対策として、市販後の適切な調査や情報収集から安全性に関する問題を早期に特定し、添付文書改訂などの対策を講ずることは重要である。しかし、改訂作業には多くの時間と労力を要することが課題である。そこで本研究は、使用上の注意の改訂のうち添付文書の「重大な副作用」の項に新たに追記される副作用と医薬品の組み合わせを早期に特定することを目的とし、医薬品副作用データベースと機械学習を活用した予測モデルを開発した。
【方法】
2011年8月から2020年3月までに添付文書へ追記された重大な副作用のうち、国内の副作用症例の集積を理由とした添付文書の改訂がされたものを陽性とし、添付文書改訂6ヶ月前時点の副作用集積情報をもとに累積報告件数等の34個の説明変数を作成した。陰性は、陽性の対象副作用が添付文書の重大な副作用の項に記載されていない医薬品とし、2020年3月時点の副作用集積情報をもとに説明変数を作成した。副作用集積情報は医薬品副作用データベース(JADER)を使用した。複数の機械学習アルゴリズムで予測モデルを構築し、二値分類モデルの評価指標としてマシューズ相関係数(MCC)を用いた。
【結果・考察】
解析対象期間中に617件の重大な副作用の追記があり、うち334件が国内の副作用症例の集積を理由とした改訂であった。モデル構築におけるデータセットでは、添付文書記載名とICH国際医薬用語集の基本語が突合可能な副作用と医薬品の組み合わせに限定し、陽性296件、陰性22,820件が得られた。作成したモデルのうちSVMが最も高い性能を示した(学習データ: MCC 0.947、 テストデータ: MCC 0.923)。また、説明変数の中で「対象副作用報告件数/全医薬品における対象副作用報告件数の合計」は作成した全てのモデルにおいて高い重要度を示した。一方、製造販売業者が添付文書の改訂要否を判断する際の基準として用いる「報告症例数」、「再投与再発症例数」、「死亡者数」は、全てのモデルにおいて重要度が低いことが示された。この結果から、添付文書の改訂要否を検討する際、医薬品単体から得られる情報のみを用いた判断は難しいことが示唆された。
【結論】
本モデルは、添付文書の重大な副作用の項に追加される副作用と医薬品の組み合わせを早期に高い精度で予測することができた。JADERと機械学習を用いた本予測モデルは、安全対策措置の要否決定を支援する効率的な手法として期待できる。