【目的】「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドライン」においては、進行がん患者の治療を目的とした医薬品の臨床試験実施あるいは製造販売承認申請のためには、雌雄の受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は必要とされておらず、一般毒性試験で得られた当該医薬品の生殖器官に及ぼす影響を、雌雄の受胎能障害の評価の根拠として用いるべきであるとされている。今回、我が国における抗悪性腫瘍剤の有益性投与に必要な要件について検討した。【方法】2014年4月1日から2022年3月31日までに新有効成分含有医薬品として日本で承認された抗悪性腫瘍剤のうち、泌尿器癌を効能・効果としない74剤を対象とした。審査報告書及び添付文書より、審査の過程、添付文書における注意等の情報を収集し、有益性投与の判断根拠について検討した。【結果・考察】有益性投与44剤、禁忌27剤、投与しないことが望ましい3剤であった。申請者と医薬品医療機器総合機構(PMDA)の見解が異なった薬剤は8剤であった。いずれも2017年9月以前に承認されており、PMDAは有益性投与ではなく禁忌と設定すべきと判断していた。根拠(重複含む)としては、催奇形性所見3剤、無毒性暴露量が臨床暴露量を下回る3剤、生殖発生毒性試験の不足2剤、生殖発生毒性試験未実施1剤であった。2017年9月に承認された「ダラザレックス点滴静注100mg、同点滴静注400mg」の審査では、生殖発生毒性試験が未実施であったものの、専門協議の議論を踏まえ、催奇形性のリスクを示唆する報告は得られていないこと、使用できる抗悪性腫瘍剤が極めて限られていること等を考慮し、有益性投与と設定していた。また、「キイトルーダ点滴静注20mg、同点滴静注100mg」は、初回承認時に禁忌と設定されたものの、2017年の製造販売承認事項一部変更承認申請の審査において、初回承認時以降の情報も含め、現在までに本薬投与による催奇形性のリスクに関する情報は得られていないこと、対象疾患の重篤性等を考慮し、禁忌から有益性投与に変更となった。【結論】2017年9月以降、抗悪性腫瘍剤の多くが妊婦への有益性投与が可能となり、妊婦または妊娠の可能性のある患者に対する治療選択肢が増えていることから、慎重な患者選択及び患者またはその家族に対する十分な説明がより重要であると考える。