【目的】日本で承認された循環器官用薬領域における新有効成分含有医薬品(以下「新薬」)及びその後発品を調査対象として、それらが上市した後の市場における競合状況を明らかにし、新薬等の市場からの撤退及び年間あたりの薬価の下落率(以下「薬価下落率」)と背景要因(競合状況を含む)の関係を探索することを目的とした。【方法】1977年11月から2001年12月に循環器官用薬領域で日本で承認された新薬(先発品)174品目(174成分)を各品目上市後20年間観察した。観察期間の新薬の撤退、薬価、後発品の参入・撤退、同一有効成分で自社及び共同開発の他社製品の収載の有無(初収載時及び観察期間内)、企業属性(新薬・後発系、内資・外資系)を収集した。新薬の市場からの撤退をイベントとする生存時間分析及び薬価下落率を目的変数とする回帰分析を実施した。【結果・考察】新薬174品目の内、63品目(36%)で後発品が収載されず、85品目(49%)で観察期間は新薬と後発品が共存し、4品目(2.3%)は新薬が撤退していた。新薬と後発品の競合の結果、後発品が撤退する事例も観察された(6品目、3.5%)。生存時間分析から、内資系企業の品目が撤退しにくいこと、同一有効成分で共同開発の他社が別ブランド名の新薬を上市する品目では撤退が生じやすいこと、後発品が参入した新薬は撤退しにくいことなどが明らかになった。回帰分析から、新薬と後発品が共存している方が後発品非収載の場合より薬価下落率が大きいこと、また、後発品初収載時の品目数が多い又は自社の新薬に新たに規格を追加する方が薬価下落率が大きいことが明らかになった。収載期間が長い方が薬価下落率が小さかった。【結論】成分レベルでの市場を長期にわたり観察した結果、新薬(先発品)の参入様態(共同開発品の有無など)、後発品の参入状況、新薬・後発品の薬価の推移及び両者の市場からの撤退は複雑に・内生的に関係していることが明らかになった。新薬のライフサイクルマネジメント(効能追加等に伴う規格の追加など)もそれらの関係の中で位置づけられ、影響を与えているものと考えられる。見出された関係がどのような市場・規制メカニズムの下で具現化しているか(各要素間の因果関係)をさらに検討する必要がある。