【目的】疾患レジストリは、疾患のNatural historyおよび患者のPatient journeyを明らかにするための強力なツールの1つであり、その薬事利用が近年注目を集めている。しかし、新薬承認申請時に疾患レジストリを使用した事例は希少疾患に限定されており、またそれらの疾患レジストリのうち薬事利用を前提に設計されたものはまだ多くない。薬事規制の意思決定における重要な情報源としてCommon diseaseでの疾患レジストリの可能性を探求するために、本研究では薬事規制レベルでのデータを提供する緑内障レジストリの品質管理システムの設計および実装を試みた。
【方法】ICH-E6 (R2)ガイドラインにおいて治験の品質管理で推奨されているRisk-based approachを参照して緑内障レジストリの品質管理システムを設計し、AHRQのRegistries for Evaluating Patient Outcomes: A User's GuideおよびGAMPガイド:コンピュータ化システムのGxP適合へのリスクベースアプローチ(GAMP5)に基づきガバナンス、コンピュータ化システムバリデーション(CSV)およびリスク評価/管理の3要素から品質管理システムを構成した。また、設計した緑内障レジストリの品質管理システムについて、規制当局のガイドライン・通知等での疾患レジストリの品質に関する推奨事項への準拠の有無を評価した。
【結果・考察】東北大学と慶應義塾大学による緑内障レジストリの共同ガバナンス組織を設立し、品質管理システムを構築するための15種の標準業務手順書を作成した。CSVでは緑内障レジストリで用いるElectronic Data Capture (EDC)システムとしての適格性をベンダー監査にて評価し、緑内障レジストリ用に設計したEDCシステムの構成設定をV-modelフレームワークにより検証した。リスク評価/管理ではCritical To Quality(CTQ)としてインフォームドコンセント、適格性評価、および主要な眼科検査を設定し、CTQを含む合計23のリスク項目を特定し高・中・低リスクに分類、それぞれのリスク評価に応じてモニタリング計画を策定した。設計した緑内障レジストリは、規制当局のガイドライン・通知等での品質に関する推奨事項のうち2つを除く大部分の推奨事項を満たした。
【結論】薬事利用を目指した緑内障レジストリでの品質管理システムを設計および実装してデータ品質を確保し、緑内障患者の長期追跡データを前向きに収集することを可能にした。