【目的】統合失調症は幻覚や妄想等を呈する陽性症状、意欲の低下等を呈する陰性症状を引き起こす精神疾患である。また、統合失調症治療薬の反応性には、大きな個人差が存在することが知られている。一方、精神疾患の病態を解明するにあたってミトコンドリア機能障害との関連性が提唱されており、ミトコンドリアDNAコピー数(mtDNA-cn)を測定することで間接的にミトコンドリアの機能を評価することが可能である。本研究では、統合失調症患者のmtDNA-cnを測定し、薬物治療反応性との相関を検討することを目的とした。
【方法】DSM-IV診断基準で統合失調症と診断された患者を対象とし、全対象患者より書面にて研究参加への同意を取得した。ペロスピロンかアリピプラゾールのどちらか1剤を無作為に割りつけ、被験者に投与した。抗精神病薬反応性の評価にはPositive and Negative Syndrome Scale(PANSS)を用い、改善率を(投与前のPANSS-投与8週後のPANSS)/(投与前のPANSS)の式で計算した。薬物投与前に各患者から末梢血を採取、ゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型とし、mtDNAに存在するND1の遺伝子量と核DNAに存在するRNasePの遺伝子量を求め、ND1遺伝子とRNaseP遺伝子の存在比を求めることで、mtDNA-cnを測定した。被験者をmtDNA-cnが高い群、低い群の2群に分類した。なお、本研究は関西医科大学及び兵庫医科大学の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】改善率の計算が可能であった72名(ペロスピロン35名、アリピプラゾール37名)を解析対象とした。ペロスピロン投与群において、mtDNA-cnが高い群で薬剤反応性が高い結果が得られた。また、目的変数にPANSS改善率、説明変数に年齢、性別、投与前のPANSS、mtDNA-cnを用いて回帰分析(ステップワイズ法)を行ったところ、年齢、mtDNA-cnが有意な説明変数としてピックアップされた。
【まとめ】年齢とは独立して、mtDNA-cnがペロスピロンの効果発現の個人差に関連することが示唆された。抗精神病薬はミトコンドリアの複合体Iの活性を抑制することが報告されており、mtDNA-cnが高いと抗精神病薬により抑えられる複合体Iの度合いが大きくなると推察される。しかし、反応性に関する機序は不明であり、今後の更なる検討が必要である。