【目的】重症薬疹のStevens-Johnson 症候群(SJS)や中毒性表皮壊死融解症(TEN)は、特異体質性の副作用のため発症の予測が困難である。これまでに、SJS/TENの発症とヒト白血球抗原(HLA)との関連が報告されているが、HLA型解析は費用と時間がかかるため、遺伝子診断としてはいまだ臨床応用されていない。そこで、近年我々は、アロプリノールによるSJS/TENの発症と関連が報告されているHLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡にある一塩基多型(rs9263726G>A)を用いて、核酸クロマトグラフィー法による、より簡便で迅速な遺伝子診断法を開発した。本研究の目的は、本手法の分析法バリデーションを行うことである。
【方法】全国より集められたアロプリノールによるSJS/TEN発症患者試料(28例)の全血からゲノムDNA を採取し、HLA型解析およびrs9263726の解析(TaqMan法と核酸クロマトグラフィー法)を行った。PCRの増幅領域を完全に内包するように作成した人工遺伝子を標準品として用いた。核酸クロマトグラフィー法の分析法バリデーションは、FDA Foods Program(2020)の評価方法を参考にした。すなわち、標準品および既存法との一致性を評価し、3回の反復測定による室内再現精度と、試料の3倍の希釈系列を作成し各濃度の3回の反復測定を行った。
【結果・考察】TaqMan法による解析では、15例のHLA-B*58:01のヘテロ接合型患者は全て、rs9263726の遺伝子型はヘテロ接合型(G/A)であった。一方、HLA-B*58:01を保有していない13例は、野生型ホモ接合型(G/G)であった。核酸クロマトグラフィー法による解析では、標準品および患者試料ともに、rs9263726の各アレル(GまたはA)に対応したチップ上の異なる位置にバンドを検出した(感度と特異度はともに100%)。この核酸クロマトグラフィー法の結果は、TaqMan法による解析と完全に一致した。3回の反復測定によるバンド濃度の室内再現精度の平均は23%であり、参考にした基準値(25%)未満であった。また、試料の検出限界は1.1 ngであった。この他、PCR試薬、プライマー濃度、アニーリング温度等に軽微な変更を加えて、分析法の頑健性の評価を現在行っている。
【結論】我々の構築したrs9263726を検出する核酸クロマトグラフィー法は、感度、特異度、再現性が高く、検出感度の鋭敏な優れた試験法であることが示された。本法は、日本人のHLA-B*58:01のサロゲートマーカー検出法として有用であると期待される。