【目的】レンバチニブは、切除不能な肝細胞がんの治療に用いられるマルチキナーゼ阻害薬である。肝細胞がんを対象としたREFRECT試験において、mRECISTによる効果判定で奏効性を示した患者は24%と報告されており、奏効性には個体差がある。本研究では、レンバチニブの薬効を反映したバイオマーカー探索を目的として、患者の血漿検体をメタボロミクス解析し投与開始前後の変化や他のバイオマーカー等との相関を検討した。【方法】レンバチニブによる治療を受けた切除不能進行・再発肝細胞がん患者を対象とし、レンバチニブ治療開始日の初回投与前、および投与後経時的に採血した。治療開始15日後のレンバチニブ投与直前にも採血した。血漿を除タンパク後、液体クロマトグラフ-三連四重極型質量分析計(LC-MS/MS)でレンバチニブの血漿中濃度を定量するとともに、同じ検体すべてを液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計(LC-TOFMS)で移動相・カラム・極性が異なる複数の測定条件下、網羅的に低分子化合物を検出した。抽出したイオンをKNIMEソフトウェアで統合し、各種クライテリアを満たすイオンをバイオマーカー候補化合物とした。【結果・考察】レンバチニブ投与開始前と開始後15日目における同一患者の血漿メタボロミクス比較の結果、有意に(p<0.05)シグナル強度が増加した化合物群として、長鎖アシルカルニチン(C12, C14, C16およびC18)が見出された。遊離およびアシルカルニチンの変化を報告した既報(PLoS One 15, e0229772, 2020)と合致するとともに、変化するアシルカルニチンの鎖長を新たに特定できた。一方、カルニチン、短鎖、中鎖アシルカルニチンは治療前後でシグナル強度に有意な変化はなかった。さらに、長鎖アシルカルニチンと対応した長鎖脂肪酸(C12およびC14)の血漿中シグナル強度も、レンバチニブの治療前後で有意に増加していた。長鎖アシルカルニチンの血漿中濃度変化が、レンバチニブの曝露に依存するかや、脂肪酸代謝との関連を探る目的で、実験動物で同様の検討を実施中である。【結論】肝細胞がん患者へのレンバチニブ投与によって、一部の長鎖アシルカルニチンと脂肪酸の血漿中濃度が増加することが明らかとなった。今後、血漿中濃度増加のメカニズムや治療奏効性との関係を評価する必要がある。