【背景・目的】薬剤性急性腎障害(AKI)は、医薬品の投与によって腎機能が低下し、一部は慢性腎臓病(CKD)へ移行する場合があるため、薬剤性AKI発症及びCKD移行に関わるリスク因子を把握する事は臨床上重要である。一方で、電子カルテ情報に代表される医療情報データベース(MID)の安全性評価への応用が期待されている。そこで本研究では、MIDを活用し、アミノグリコシド系(AGs)とグリコペプチド系(GPs)抗菌薬による薬剤性AKI発症及びCKD移行に関わるリスク因子を明らかにする事を目的とした。
【方法】浜松医科大学医学部附属病院において、1996年1月~2018年1月の間にAGs(アミカシン、ゲンタマイシン、アルベカシン)あるいはGPs(テイコプラニン、バンコマイシン)が処方された患者を対象とした。対象薬の投与時期と血清クレアチニン値(SCr)を用いて、薬剤性AKI発症群と非発症群を定義し、患者背景因子(併存疾患、併用薬、初回投与前検査値)を比較した。また、薬剤性AKIのリスク因子を探索するために、説明変数を患者背景因子、目的変数を薬剤性AKI発症とした多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに、薬剤性AKI発症群においてCKD移行に関わるリスク因子を探索するために、患者背景因子に薬剤性AKI発症時の検査値を加え、単変量ロジスティック回帰分析を行った。
【結果・考察】薬剤性AKIのリスク因子の探索について、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用経験によって薬剤性AKIの発症リスクが有意に上昇したが、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の使用経験は影響を与えなかった。この事は、胃酸過多ではなく、PPI自体が薬剤性AKIのリスク因子である事を示唆していた。また、血清乳酸脱水素酵素値や血清ナトリウム値の高値、血清アルブミン値、血清カリウム値、推算糸球体濾過量の低値によって薬剤性AKI発症リスクが有意に上昇し、これらの検査値に関わる因子が薬剤性AKIのリスク因子である事が示唆された。さらに、薬剤性AKI発症後のCKD移行に関わるリスク因子の探索を行ったところ、薬剤性AKI発症時の血清尿素窒素とSCrの比の高値によってCKDへの移行リスクが有意に低下した。この事は、CKD非移行群では薬剤性AKI発症時に腎血流量が減少していた可能性が考えられ、腎血流量の回復により、腎機能が回復した可能性が考えられる。
【結論】MIDを活用する事で、薬剤性AKI発症及びCKD移行に関わるリスク因子を明らかにする事ができた。