【目的】HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)による重大な副作用として横紋筋融解症が報告されている。また、スタチン系薬剤とフィブラート系薬剤を併用することで横紋筋融解症の発症リスクが増加することが知られている。このようにスタチン系薬剤と併用することで横紋筋融解症の発症リスクを増加させる薬剤はあるものの、そのメカニズムは完全には解明されていない。そこで本研究では、メカニズム解明に向けてスタチン系薬剤による横紋筋融解症の発症リスクを変化させる可能性のある併用薬の探索を行うことを目的とした。
【方法】医薬品医療機器総合機構が公表する2004年4月から2021年9月までのJADERを利用して、スタチン系薬剤を被疑薬とする報告を抽出した。有害事象は、ICH国際医学用語集(MedDRA/J)ver.24.1のPreferred Terms (PT)「横紋筋融解症」を対象とした。スタチン系薬剤は、2021年9月時点で使用されている6種類の薬剤を対象とした。併用薬はスタチンと併用頻度の高い34種類の薬剤を対象とし、スタチン併用時および非併用時の報告オッズ比 (ROR)の算出を行った。データ解析にはJMP Pro ver.16.0.0を用いた。
【結果・考察】クリーニング後のデータセットには、391,096人の情報があり、スタチン系薬剤の報告は15,451人、スタチン系薬剤で横紋筋融解症を発現したのは969人であった。スタチン系薬剤と併用して高いRORを示した薬剤は、センノシド(ROR:6.00)、アムロジピン(5.49)、フィブラート系薬剤(5.05)、ニフェジピン(4.92)であった。アムロジピン(3.39)とフィブラート系薬剤(29.6)はそれ自体も発症リスクを示したのに対し、センノシド(報告なし)およびニフェジピン(1.79, 95%信頼区間:0.96-3.35)は発症リスクを示さなかったため、これらはスタチン系薬剤の横紋筋融解症の発症リスクを増加させる可能性がある。
【結論】本研究で、併用によりスタチン系薬剤の横紋筋融解症の発症リスクを変化させる可能性がある医薬品を見出した。薬物相互作用によるスタチン系薬剤の血中濃度上昇などにより、横紋筋融解症が発症しやすくなることが知られている1)。今後は、今回見出した医薬品について横紋筋融解症の発症メカニズムをさらに検討する予定である。
【参考文献】1) 濱野忠則ほか (2007). スタチンと横紋筋融解症 日本内科学会雑誌, 96, 80-85.