【目的】大動脈をはじめとした各種動脈における瘤・解離疾患は、死亡率の高い血管疾患の一つである。動脈瘤・解離の危険因子として高齢者、男性、喫煙、高血圧、動脈硬化、結合組織病などが知られているが、加えて、フルオロキノロン系抗菌薬や血管新生阻害剤などを用いた薬物治療の有害事象として、動脈瘤・解離のリスクが高まる可能性が示唆されている。近年、勃起障害などに使用されるcGMP特異的ホスホジエステラーゼ (PDE5) 阻害剤使用後に動脈瘤・解離を発症した患者の症例が複数報告されている。動脈瘤モデルマウスを用いた動物実験においても大動脈瘤を悪化させるという結果が得られており、PDE5阻害剤は動脈瘤・解離に関与する可能性が示唆される。本研究では、世界保健機関 (WHO) のグローバルファーマコビジランスデータベースであるVigiBaseを用いたファーマコビジランス手法により、PDE5阻害剤のヒトに対する動脈瘤・解離リスクを明らかにすることを目的として研究を行った。【方法】WHOの個別症例安全性報告データベースであるVigiBaseを使用し2021年12月までのデータを不均衡分析により解析した。PDE5阻害剤としてシルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル、ウデナフィル、アバナフィルに関して解析した。副作用発現の有無や薬剤使用の有無から報告オッズ比 (ROR) を算出し、RORの95%信頼区間の下限値が1を超えるものを、副作用シグナルが検出された、とみなした。【結果・考察】VigiBaseにある27,994,584件の報告のうち249件でPDE5阻害剤使用との関連が疑われる動脈瘤・解離が報告されていた。不均衡分析の結果ではPDE5阻害剤投与例において副作用シグナルが検出され、個別の薬剤としてはシルデナフィル、タダラフィルでシグナルを認めた。またPDE5阻害剤使用症例に関して、適応症ごと、または瘤・解離病変が形成された各動脈の部位ごとに実施した不均衡分析においても、それぞれシグナルが検出された。年齢・性別で層別化した解析でも同様にシグナルが検出された。これらの結果はPDE5阻害剤の使用と動脈瘤・解離の関連を示しており、PDE5阻害剤の使用が動脈瘤・解離発症のリスクを上昇させる可能性を示している。【結論】本研究によりPDE5阻害剤は動脈瘤・解離のリスクを高める可能性があり、PDE5阻害剤の使用と動脈瘤・解離発症の因果関係を証明するために、母集団解析を含むさらなる研究が必要であることが示された。