【目的】Mitogen Activated Protein Kinase(MAPK)シグナル伝達経路の一つであるRAS-RAF-MEK-ERKシグナル伝達経路は、細胞の増殖やアポトーシス抑制などの決定に関わることが報告されている。本経路を阻害することにより効果を発揮する薬剤が開発されているが、本研究ではMEK阻害剤に着目した。米国あるいは日本国内で上市されているMEK阻害剤を用いて、薬物動態や薬物間相互作用(DDI)に関する臨床薬理学的特徴について比較検討した。
【方法】調査対象薬として、上市されているMEK阻害剤であるBinimetinib、Cobimetinib、Selumetinib、Trametinibの4剤を選択した。資料としては、各薬剤の添付文書、インタビューフォーム、申請資料概要を使用した。
【結果・考察】基本的な動態特性として、全てのMEK阻害剤はマスバランス試験成績より糞中排泄が主で、未変化体の尿中排泄率から腎排泄の寄与は低かった。さらに4剤は全てP-gp基質であるが、溶解性・膜透過性によるBCSクラス分類は異なるため、吸収におけるP-gp排泄の影響は薬剤により異なることが示唆された。また消失に関与する主な代謝酵素は薬剤毎に異なり、CobimetinibとSelumetinibはCYP3A4、BinimetinibはUGT1A1、TrametinibはCarboxylesterasesと様々である。CobimetinibやSelumetinibについては、臨床DDI試験より、強力なCYP3A4阻害剤による曝露の上昇が確認されている。さらにTrametinibを除く3剤では、薬物速度論モデルによって薬物相互作用の影響が検討されていた。臨床成績を用いた母集団薬物動態解析より、全ての薬剤において一次消失過程のある2-compartment modelが適用されていたが、吸収に関わる部分の記述は薬剤毎に異なっていた。吸収には製剤、溶解性、膜透過性などが密接に関係し、これらが薬剤間で異なっているために吸収のプロファイルも異なったと考えられた。また、Selumetinibのクリアランスに対してBSAが臨床的に意味のある共変量として見いだされたが、他3剤において体重は臨床的に意味のある共変量としては認められなかった。これにより、小児の神経線維腫1型に適応のあるSelumetinibは BSAベースの用量、他3剤は固定用量であった。
【結論】比較検討した各MEK阻害剤において、臨床薬理学的特徴は全体的に大きく異なっていた。これは、構造最適化による各薬剤の差別化に起因すると考えられた。またM&Sを利用した情報提供は、共通して認められた。