【目的】オラパリブの用量規定因子である貧血発現率は、特に日本人で高頻度であることが報告されている(日本; 62.5% vs. その他; 42.2%)。貧血に伴う休薬や中止は治療強度の減弱に直結するが、貧血の要因は十分に検証されていない。本研究では有害事象自発報告データベースを用いてオラパリブの体重当たりの投与量と貧血発現の関連について解析した。
【方法】FAERS及びJADERにおける2018年から2021年の報告を用いた。FAERSのうち、日本からの報告をFAERS-Japanと定義した。オラパリブの貧血発現についてreporting odds ratio (ROR)を算出した。検討した因子は、年齢、性別、体重、CYP3A4阻害薬及び誘導薬、葉酸低下薬、ビタミンB12低下薬、プラチナ製剤とし、各報告例の体重あたりのオラパリブ投与量を算出した。葉酸低下薬はST合剤、メトトレキサート、抗てんかん薬、サラゾスルファピリジンを、ビタミンB12低下薬はPPI及びH2拮抗薬、メトホルミン、抗てんかん薬を対象とした。さらに性別にて調整を行ったadjusted ROR (aROR)を算出した。
【結果・考察】FAERS より抽出された6704例のうち332例(5%)に貧血が報告されていた。FAERS-Japanでは 1064例のうち179例(16.8%)が貧血であった。一方、JADER より抽出された1289例のうち297例(23.0%)で貧血が報告されていた。FAERS及びJADERのいずれにおいても、体重当たりの投与量≧12 mg/kgと貧血の間に有意な関連があった (FAERS; aROR=4.483 [3.009-6.680], p<0.001, JADER; aROR=1.628 [1.039-2.551], p=0.034)。また、FAERSでは体重<50kg、日本人、ビタミンB12低下薬、プラチナ製剤が貧血の関連因子として抽出され、FAERS-Japanでは体重<50kg及びプラチナ製剤が貧血発現因子として抽出された。オラパリブの曝露量は有害事象の発現に関連することが報告されている。さらに、ビタミンB12低下や貧血は低体重でしばしば合併するとされる。したがって、体重当たりのオラパリブ投与量は貧血の発現と密接に関連していると考えられた。また、プラチナ製剤は酸化ストレスを介したDNA損傷により貧血を引き起こすため、オラパリブと相補的に貧血に寄与している可能性が示唆された。
【結論】低体重の症例ではオラパリブの貧血発現に一層の注意を要する。ビタミンB12低下薬とプラチナ製剤の投薬歴もオラパリブの貧血評価に必要であることが示唆された。