目的)切除不能あるいは転移性尿路上皮癌(mUC)に対する治療は、一次治療としてプラチナ製剤を含む抗癌化学療法が推奨されている。一次治療で進行を認めた場合は二次治療として抗PD-1抗体であるペムブロリズマブ治療が、一次治療で疾患進行が認められていない場合は維持療法として抗PD-L1抗体であるアベルマブ治療が推奨されている。さらに、2021年9月、プラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬による治療後に進行を認めたmUCに対する三次治療として、エンホルツマブ ベドチン(EV)が本邦で承認された。これは、泌尿器科癌の治療薬としては初めての抗体薬物複合体である。今回、当院におけるEV療法の初期経験として治療効果および副作用の実際につき検討した。方法)承認後から2022年5月までに、当院では10例のmUC症例に対してEV療法を開始した。患者背景、治療効果、および副作用の実際につき検討した。結果)全例男性であり、年齢の中央値は70.5歳(範囲:54-84歳)であった。原発は膀胱癌が5例、腎盂・尿管癌が5例であった。先行する免疫チェックポイント阻害薬の内訳は5例がアベルマブ維持療法、5例がペムブロリズマブ治療であった。EV開始後のf/u期間の中央値は5か月(範囲:2-7か月)であり、施行コースの中央値は3.5回(範囲:2-7回)であった。7月1日時点の転帰は2例で癌死、2例は病勢進行および副作用のため投与中止となり、1例は病勢コントロールが得られるも副作用のため継続困難となり、5例で現在投与進行中である。現在EV投与継続中の5例のうち、4例は腫瘍縮小を認めており、1例は病勢維持であった。安全性に関しては、全例において何らかの副作用を認めた。特に皮膚障害に関しては2例を除いた8例においてGrade 2以下の副作用を認めたが、その内訳は掻痒感、斑状丘疹状皮疹、皮膚色素沈着亢進と多岐にわたった。なお、全例において皮膚科より保湿剤の使用、皮膚反応出現にステロイド外用薬塗布の指示がEV投与前になされていた。またGrade 3以上の副作用は下痢1例、全身倦怠感1例と計2例に認めた。いずれも一旦休薬ののち投与再開したものの最終的には副作用により中止となっている。結語)一次抗癌化学療法、および免疫チェックポイント阻害薬に抵抗性を示す尿路上皮癌に対してEV治療は有効性を示し、安全に使用可能であると考えられた。