【目的】免疫チェックポイント阻害薬は、宿主のT細胞機能を抑制するシグナル伝達を阻害することにより抗腫瘍効果を示すが、奏効率が低いという課題がある。糞便移植が免疫チェックポイント阻害薬の奏効率を向上させる事がわかっているが、既報では患者への負担が大きい大腸内視鏡を用いた糞便移植が行われている。本研究では、免疫チェックポイント阻害薬に併用する糞便移植のための、患者への負担が少ない腸溶性経口糞便カプセルの開発を試みた。
【方法】市販の耐酸性カプセル(DRCaps)をpH感受性のコーティング剤で二重に覆うことにより、腸溶性カプセルとした。比較の対照として、先行研究で用いられていた二重DRcapsを用いた。カプセルの酸耐性および物理的耐性を調べるため、徐放性製剤溶出試験器BIO-DISを用いて、崩壊試験を行った。生理的な消化管内のpHと滞在時間を考慮して、(1)胃条件pH1.2・2時間、(2)十二指腸条件pH4.5・1時間、(3)小腸条件pH6.8・3時間、(4)大腸条件pH7.5・2時間とした。メッシュサイズ20のシリンダーを用いて1分間に5回上下運動を行い、目視により、カプセルの崩壊を確認した。また、健常人糞便を内包した腸溶性カプセルを作製し、上記(1)から(3)の条件で崩壊試験を行い、カプセル内糞便の生菌率および菌叢構成を崩壊試験前後で比較した。糞便の生菌率はルシフェラーゼ反応を用いたATP量の測定により、また菌叢構成は16S rRNA解析により調べた。
【結果・考察】先行研究の二重DRcapsは胃条件で1時間以内に崩壊したのに対し、我々が開発した腸溶性カプセルは、胃条件から小腸条件まででは崩壊せず、大腸条件において1時間以内に崩壊した。また、腸溶性カプセル内の糞便の生菌率は、胃条件から小腸条件までの崩壊試験後においても、試験前と比べ変化はなかった。さらに、腸溶性カプセル内糞便の菌叢構成も、試験前後で大きな変化は認められなかった。以上の結果から、我々が開発した腸溶性糞便カプセルは、内包する糞便の生菌率および菌叢構成を変化させずに大腸で崩壊すると予想される。
【結論】糞便移植に求められる条件を満たす腸溶性経口カプセルの開発に成功した。また、本カプセルは、薬物を大腸へ直接届ける方法としても応用可能である。