【目的】免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療効果に腸内細菌叢のプロファイルが重要な役割を果たすことが知られている。胃酸分泌抑制薬は、腸内細菌叢の変化をもたらし、ICIの治療効果に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。近年、肺がん薬物治療において、殺細胞性抗がん薬にICIを併用するレジメンの使用が増加しているが、ICI併用レジメンの治療効果に及ぼす胃酸分泌抑制薬の影響についてほとんど知られていない。本研究では、肺がん患者におけるICI併用レジメンの治療効果に及ぼす胃酸分泌抑制薬の影響について検討した。【方法】2019年1月~2022年5月に大阪大学医学部附属病院で、肺がん薬物治療として、新規にICI+殺細胞性抗がん薬の併用レジメンを投与された入院患者68例を対象に後方視的調査を実施した。治療開始時における胃酸分泌抑制薬の服用の有無で2群に分類し、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を比較し、治療効果に及ぼす影響因子についてはCOX比例ハザードモデルを用いて検証した。統計解析はJMP Pro 15を用いて行った。【結果・考察】治療開始時にPPI(18例)、ボノプラザン(6例)、ファモチジン(4例)の計28例において胃酸分泌抑制薬の服用があり、内26例(92.9%)は治療期間を通して処方されていた。服用群(28例)と非服用群(40例)の患者背景を比較したところ、性別、年齢、喫煙歴、ドライバー遺伝子変異、PD-L1発現(TPS 1%以上)、組織型(SCLC)、レジメンの種類、ステロイド、抗菌薬服用の有無について有意差は認められなかった。PFSの中央値は、服用群:218日、非服用群:409日であり(p=0.103)、OSの中央値は、服用群:458日、非服用群:未到達(p=0.034)であり、服用群においてPFS以上に、OSに大きな差が認められた。これは症例数の不足や併存疾患等の影響が考えられるが、本研究では消化管出血等の胃酸分泌抑制薬に関連する疾患による死亡例は認めなかった。さらに、OSに対する影響因子について多変量解析を行ったところ、胃酸分泌抑制薬が独立したリスク因子として抽出された(HR:3.06, 95% CI:1.15-8.17, p=0.025)。本研究は、ICI併用レジメンの治療効果に対し胃酸分泌抑制薬が影響する可能性を示し、肺がん薬物治療の治療効果を向上するための重要な知見と考えられる。【結論】本研究より、胃酸分泌抑制薬は、肺がん患者におけるICI併用レジメンの治療効果に悪影響を与える可能性が示唆された。