【目的】近年、新しい作用機序を有するきわめて効果的な抗がん剤が数多く開発され、がん患者の生命予後は大きく改善している。一方では、抗がん剤の多様で高頻度の副作用が問題となっている。その中で、抗がん剤による心毒性は致命的な転機をたどることがあり、抗がん剤使用時の早期発見や予測が極めて重要である。そこで、抗がん剤による重大な心毒性で、致死的な催不整脈を引き起こす可能性のあるQT間隔延長ならびTorsades de Pointes(TdP)に着目し、我が国におけるの抗がん剤投与によるQT延長ならびTdPの自発報告状況と患者の特徴を調査した。【方法】2004年4月~2021年10月までの日本の医薬品副作用報告データベース(JADER)を用いて、心電図QT延長およびTdP報告例を収集した。QT 延長・TdP 報告例の解析ならびにリスクの評価は、記述統計ならびにreporting odds ratio (ROR)と95%信頼区間を用いて評価した。【結果】合計 4031 件のQT 延長ならびに TdP の個別症例安全性報告(ICSR)が抽出された。抗がん剤が疑われるICSRは769件(19%)であり、そのうちQT延長740件、TdP29件、両方11例であった。患者の年齢は新生児から90歳以上までと幅広く、70-79歳が24.4%と最も多く、次いで60-69歳が22%、50-59歳が14%であった。性別は女性44%、男性50%、性別不明6%であった。使用された抗がん剤の種類は分子標的薬72.2%と最も多かった。QT延長の報告頻度はニロチニブが最も多く、次いでオシメルチニブ、三酸化二ヒ素、クリゾチニブの順であった。QT延長発現後の処置は、「投与中止(58%)」、「投与量変更なし(13%)」、「減量(10%)」であった。抗がん剤によるQT延長及びTdPの全報告例のうち、回復はそれぞれ48%及び41.4%、軽快は17%及び24%であり、QT延長例における生命に関わる重篤な副作用は後遺症0.1%、死亡0.5%及び未回復8.5%であった。QT 延長の報告の多くは、分子標的薬と三酸化ヒ素に起因するものであった。また、RORはバンデタニブ、三酸化ヒ素、ニロチニブ、ギルテリチニブ、オシメルチニブ、アナグレリド、クリゾチニブで10以上であった。【結論】JADERによるQT 延長/TdP に関するICSRのうち、19%が抗がん剤によるもので、特に分子標的薬や三酸化ヒ素の報告数が多く、RORも高かった。抗がん剤治療を行う際には、QT 延長/ TdPなどの心毒性を意識したリスク評価およびモニタリングが求められる。