【目的】慢性骨髄性白血病(CML)治療薬のダサチニブは, 投与中にリンパ球数や大顆粒リンパ球(LGL)増加する. しかし, リンパ球数やLGLの推移とCKDとの関連は未検討である. 今回, リンパ球数やLGLに着目しCKDの進展と関連するか後ろ向きに検討した.
【方法】1. CKD進行要因探索
対象はNTT東日本関東病院において, 2008~19年の間にダサチニブが開始され, 6か月以上投与された患者とした.本検討は先行研究(Nakayama et al Am. J Ther. 2020)の二次解析である. OutcomeはCKDの発症/進行とし,2年間以上投与された患者においては,その最終観察日における年間eGFR減少量を調査した. eGFR60mL/min/1.73未満が3ヵ月以上継続あるいはCKD stageの1段階減少をCKDの発症/進行と定義した.ダサチニブ投与開始28日以降のリンパ球数, LGLを調査した.CKD発症/進行の患者背景を多変量解析にて検討した.
2. Real world dataによる検討
上記患者のうち,CKD発症/進行患者の有無に分類し,eGFR値とリンパ球数およびeGFR値とLGLの全測定点を対象として相関を検討した. 有意水準はp<0.05とし,本研究は事前に倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】解析対象は36例,性別(M/F:25/11),年齢47(29-86)[中央値(範囲)]才,診断名;CML33例,ALL3例であり,CKDの発症/進行は9例(25%)で認められた.投与期間中のリンパ球数の中央値は非CKD群2758(1089-6200)/μL,CKD群1650(770-3354)/μL(p=0.022),最大値は非CKD群4718(2075-10545)/μL, CKD群 3451(1311-4183)/μL(p=0.004)であった.多変量解析において年齢1.072(1.006-1.142)[オッズ比(95%CI)],(p=0.033), およびリンパ球数の最大値(0.999,[0.998-1.000](p=0.048)が関連因子として同定された.CKD群のeGFR年間量は-3.4mL/minであった. Real world dataにおいてリンパ球数は非CKD群/CKD群:2798±1425/1522±1400(平均±SD)(p<0.001), eGFRとの相関は非CKD群r=-0.044, p=0.232, CKD群r=-0.206,p<0.001であった.LGLを測定されていた症例はいずれもCKD非発症でありLGLとeGFRの相関はr=0.253, p=0.047であった.
【考察】Real world dataにおけるリンパ球数とeGFRの負の相関はリンパ球数の上昇が伴わない中でeGFRの減少来している結果によるものと考えられた. LGLと腎機能との関連は少数例での検討であり追加解析が必要であるものの,ダサチニブ投与中のリンパ球数の上昇がCKDの発症/進行抑制に関与していることが示唆された.