【目的】エミシズマブ(以降,本薬)は,血液凝固第VIII因子の補因子機能を代替する二重特異性抗体である。後天性血友病A(AHA)患者での本薬の薬物動態の検討を目的に,先天性血友病A(CHA)患者で構築された既存のモデルを活用して母集団薬物動態解析を実施した。
【方法】本邦で実施された第III相臨床試験(AGEHA)にて本薬の皮下投与を受け,主要解析に含まれたAHA患者12例の血漿中本薬濃度データを解析した。構造モデルは,一次吸収過程及び一次消失過程を伴う線形1-コンパートメントモデルとした。CHA患者381例のデータに基づいて特定済みの共変量効果[見かけの全身クリアランス(CL/F)及び見かけの分布容積(V/F)に対する体重,バイオアベイラビリティに対する年齢,CL/Fに対するアルブミン;V/Fに対する人種は,対象患者が全例アジア人の本解析では該当せず]は,本解析での共変量探索の冒頭から組み込むこととし,統計学的有意性に基づく組み込みの検討は行わなかった(full covariate modeling法)。年齢とアルブミンにはCHA患者での検討範囲外の値が含まれていたため,CHA患者での限界値[年齢77歳(上限値),アルブミン33 g/L(下限値)]を変曲点として共変量効果を分離推定した。性別は,対象患者が全例男性であったCHA患者で未検討の新規共変量であるため,統計学的有意性に基づく組み込みの検討を行った(stepwise covariate modeling法)。
【結果・考察】AHA患者において,CHA患者で特定済みの各共変量効果の点推定値の正負の方向性は,CHA患者での検討範囲内ではCHA患者での方向性と一貫しており,95%信頼区間もCHA患者での点推定値を含んでいた。年齢77歳超及びアルブミン33 g/L未満の共変量効果の95%信頼区間は,それぞれ年齢77歳以下及びアルブミン33 g/L以上での点推定値を含んでいた一方,統計学的有意性がないことを意味する0も含んでいた。性別の影響は統計学的に有意ではなかった。AGEHA試験で検討された維持用量である1.5 mg/kgの1週間隔投与により,CHA患者と同様,定常状態時トラフ値の平均値が目標有効濃度である30 μg/mL超に到達することがシミュレーションで確認された。
【結論】本薬の薬物動態に対する共変量又はその影響は,AHA患者とCHA患者とで大きく異ならないことが示唆され,AHA患者でもCHA患者と同様,体重換算用量で投与すること以外に共変量に基づく用量調整は不要であると考えられた。