【目的】レンバチニブ(LEN)は、進行性肝細胞がんの1次治療として承認された受容体チロシンキナーゼ阻害薬である。添付文書においてLENは、体重を基準として60 kg以上では12 mg、60 kg未満では8 mgを1日1回投与する用量設定がなされている。一方で、同用量設定で行われた第3相試験においては、有害事象の発現により減量または休薬に至る患者も少なくなかった。さらに日本人患者集団では、白人、アジア人を主とした全体集団と比較して高頻度で減量及び休薬がみられた。これまで報告されているLENの母集団薬物動態(PPK)解析は主に他の固形がん患者や健常者を対象としたものであり、日本人肝細胞がん患者を中心としたPPKモデルは報告されていない。LENのより最適な治療レジメンの提供のため、本研究では、日本人肝細胞がん患者におけるLENの血中濃度データを用いてPPKモデルを構築し、薬物動態パラメータに影響を与える因子の探索及び評価を行うことを目的とした。
【方法】九州大学病院にて2018年12月から2020年6月の間にLENを投与された、日本人肝細胞がん患者27名を解析対象とした。年齢、性別、体重等を含む患者背景および臨床検査値を共変量候補とし、尤度比検定に基づき共変量の選択を行った。解析ソフトウェアはNONMEM 7.4.3を用いた。
【結果・考察】対象患者より、LENの定常状態における血中濃度が計271点得られた。LENの血中濃度推移は、1-コンパートメントモデルにより表現された。本研究では吸収相における測定点が不足していたため、吸収速度定数は既報の数値で固定した。共変量探索の結果、LENのクリアランスに影響する因子として、体重及びALBI scoreが組み込まれた。さらに、構築したモデルを基に定常状態におけるトラフ濃度のシミュレーションを行った結果、現在承認されているレジメンでは、低体重及びALBI scoreが高値の患者において、LENのトラフ濃度が推奨トラフ濃度域の36.8-71.4 ng/mLを超える可能性が示唆された[1]。
【結論】本研究では、日本人肝細胞がん患者におけるLENのPPKモデルを構築した。本研究で構築したモデルおよび得られた知見は、日本人の肝細胞がん患者におけるLENの適正使用に寄与すると考えられる。
【参考文献】[1]Noda S, et al. (2021). Cancer Chemother Pharmacol, 88(2), 281-288.