【目的】薬剤耐性菌の増加は世界的な問題であり、中でも基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌の増加やその抗菌薬治療は、わが国の感染症診療においても大きな課題となっている。タゾバクタム(TAZ)は、ESBLを含むβラクタマーゼの阻害剤であり、ピペラシリン(PIPC)やセフトロザンといったβラクタム系抗菌薬と組み合わせた配合剤がESBL産生菌等に対して広く使用されている。TAZの活性に関する薬物動態/薬力学(PK/PD)パラメータは、薬物の遊離濃度が細菌の感受性濃度閾値を超える時間の割合(f %T>CT )とされるが、日本人小児におけるTAZの母集団PK解析は未だに報告されていない。本検討は日本人小児におけるTAZの母集団PKモデルの構築を目的とし、併せてTAZ配合剤であるPIPC/TAZに着目してPK/PD解析を行った。
【方法】TAZのPKデータは、血漿中濃度、試料採取時間、投与量、性別、年齢、体重等の詳細が記載された6つの既報に基づき、NONMEM7.4プログラムを用いて母集団PK解析を行った。PK/PDパラメータはf %T>CT とし、わが国で報告の多いCTX-M 型ESBLを考慮して感受性濃度閾値は0.25、0.5、1および2 μg/mLとした。PIPC/TAZの添付文書に基づく用法用量(1回TAZ 12.5 mg/kgを1日2回もしくは1日3回、1回TAZ 10 mg/kgを1日4回)について、各種投与時間(0.5~5時間)におけるf %T>CT を構築したモデルを用いて算出した。f %T>CT の目標は既報を参考に63%以上とし、算出値の目標達成確率を求めた。
【結果・考察】対象は0.6~15歳の患児20名で、投与量の範囲はTAZ 5.0~12.5 mg/kgであった。TAZの血漿中濃度には63時点を用いた。モデル解析の結果、2-コンパートメントモデルが適切であった。母集団PKパラメータである薬物クリアランス、中心コンパートメントおよび末梢コンパートメントの分布容積、コンパートメント間クリアランスの平均はそれぞれ、0.488 L/h/kg、0.214 L/kg、0.098 L/kg、0.351 L/h/kgであった。Goodness-of-fit plotによりモデルの適格性が確認された。得られた母集団PKパラメータを基にTAZの各種投与法におけるf %T>CT を算出した結果、点滴時間が1時間の場合には、投与量に関わらず効果の目標を達成できない可能性が示された。
【結論】本検討により、日本人小児におけるTAZの母集団PKモデルの構築に至った。同モデルの活用により、TAZ配合剤投与時におけるTAZの最適投与法の検証が可能になることが示された。