臨床研究は科学としては、適切なデザインの臨床試験といえどもそんなに「強く」はなく、科学として自立していない。臨床研究の目的は純粋な未知の事実、真実の発見ではなく、診療を良い方に変えていくことであること、すなわち誰の(どんな患者の)何を、どう変えたいかが明確に示されなければならない。ランダム化、患者の定義、精確なアウトカム評価などはある意味で「サイエンス」ではあるがこれを支える(実現する)ためには優れたオペレーションが必要になる。患者が対象であり、被験者を守ると同時にこと、そして最終的に結果が適用される将来の患者を科学的な妥当性によっても守る必要もある。臨床薬理学は臨床医学としてのヒトにおける薬物治療学、薬理学、薬物動態学、薬物代謝を基盤にしながらも疫学や規制、研究倫理の感覚、スキルを取り入れたハイブリッドなサイエンスである。歴史を振り返るといわばその時代の臨床医学の要請に応えてきたことがわかる。本講演では、臨床研究や臨床薬理学の歴史を振り返りながらCOVID-19や再生医療等製品の「条件付き承認」で露呈した日本の臨床試験の弱点と今後我々が果たすべき役割を議論したい。