ファーマコメトリクスの重要性や利活用について、国内でも製薬企業やアカデミア、さらには規制当局も含めて活発な議論が進んでいるのは周知されてきているところである。製薬企業では医薬品開発の中でModel-Informed Drug Development(MIDD)のアプローチが浸透してきている一方で、その手法は多様化してきている。なかでも臨床試験の結果を用いてモデル構築を行う経験的なモデルを用いた臨床開発の推進はすでに多くの実績がある。それに対して医薬品開発早期の臨床試験の情報が得られていない、もしくは限られている中で多岐にわたる目的に答えられるModeling & Simulation(M&S)が求められてきており、この手法としてQuantitative systems pharmacology(QSP)モデルなどが挙げられる。
M&Sを医薬品開発の中で使用する際、目的を明確にした上でモデルを使用することに対するリスク評価を行い、そのリスクに応じたモデルの信頼性基準を設けることが重要である。開発の早期と後期ではそれぞれ解決すべき問題が異なるため意思決定にモデルを用いる際のリスクも必然的に異なってくる。特に開発後期では承認申請に関わることから、高い信頼性が必要とされることが多い。このような背景から開発後期ではファーマコメトリクスを用いたM&Sが使用され、臨床試験の結果に基づいたモデル構築及びモデルの妥当性評価が行われている。
一方で開発早期においてはメカニズムの理解、標準治療との差別化、患者の選択などが求められ、生理学的な知見を基に病態を模擬できるQSPモデルが有用とされている。モデルのアウトプットとしては臨床における有効性が求められる傾向にある。しかし、臨床のエンドポイントまで生理学的に説明することが難しい疾患、特に、病変部位が組織にあり血液マーカーだけでは病態を説明できない疾患ではエンドポイントの予測に対するモデルの不確かさが大きくなる。このような疾患に対してQSPモデルの予測精度向上が期待されており、今後の研究の進展が待たれている。
本演題では、臨床薬理の立場から医薬品開発においてQSPモデルとファーマコメトリクスが必要とされる場面について述べるとともに、従来では用いられなかった情報を組み込むことによる、モデリングの新たな展望についても述べたい。