2年前の本学会での同様の企画シンポジウムにおいて「使命と思う臨床薬理教育」のテーマで発表の機会をいただいた。再度お声がけをいただき有り難く思う。本企画の趣旨は、これからの時代、女性医師が医師のキャリアプランを立て、形成していくために、臨床薬理学の専門家としてのあり方を学ぶ場合に、ロールモデルとして臨床薬理学を専門としている女性医師個々の歩みを述べてもらう、ことであると思う。しかし、発表者自身は残念ながら臨床薬理学のキャリアを形成したロールモデルであると言えない。そのキャリア形成の途上にあるというのが正しいかもしれない。そこで、サブテーマに、良い土に蒔かれる人になり,百倍の実を結ぼう!を加えた。この意味は、私たちは良い土になり、臨床薬理学の知識という蒔かれた種から、良い薬または良い薬物治療を見出し、発展させることによって、多くの患者さんを救える、という思いを込めている。本発表では、キャリア形成の途上を歩んでいる立場から、臨床薬理学の教育と研究における、発表者の過去、現在、未来の歩みについて述べる。
まず過去の歩みは、内科研修を経て、大学院で胃粘膜防御薬の効果と作用機序に関する生化学・薬理学の基礎研究を行い、その後薬理学教室に臨床薬理試験部の兼務として採用された。臨床薬理の草分け的存在の先生の下で、健康成人対象の第I相試験や臨床薬理試験を分担医師として担当した。採用の翌年、新GCPが施行され、試験数は徐々に増えた。臨床薬理学会の海外研修員として米国に1年半留学し、帰国後は責任医師の役割を与えられ、臨床薬理を面白いと思うようになった。次に現在の歩みは、薬理学に軸足を置き、教育では学生、大学院生に、新GCPの三本柱である被験者の倫理、試験の科学性、データの信頼性について教えている。研究では大学院生に、動物の苦痛を最小化する、薬の用量はヒトと乖離しない、薬の効果は対照と比較する、実験は再現性がある、ことを実践してもらっている。未来の歩みは、臨床薬理を担う教員を育成する、現在取り組んでいる創薬の基礎研究を臨床研究に橋渡しすることである。本発表を聴いてくださった皆さんが、臨床薬理学に親しみをもち、女性医師のキャリア形成の選択肢として考えていただけたら幸いである。