日本の国民医療費は40兆円を超え、今後も増加が予測されている。国民医療費が増加する理由の1つが医療技術の進歩である。毎年、新規の医薬品や医療技術等が開発され、それによって生存年数が延長したり、症状が改善したりといった多くのメリットがもたらされている。一方で、それらの技術の一部には高額なものも含まれる。国民皆保険制度は健康保険料と税金を主な財源としており、財政負担には限度がある。そのため、効率的な医療提供が求められている。医薬品等の効率性を検討する方法として、費用対効果の評価とその応用がある。費用対効果の評価においては、比較対照となる技術の設定が必要である。新規の医薬品であれば、従来から用いられている医薬品と比べて追加的な効果があるか、また追加的な費用がかかるかを検討する。追加的な効果については、一般に有効性や安全性の観点から、臨床試験の成績などをもとに判断する。追加的な効果がありかつ費用が削減になれば、これは効率性に優れると簡単に判断できる。しかし問題は、従来のものと比べて追加的な効果はあるものの費用も多くかかるという場合である。この場合には増分費用効果比(Incremental Cost Effectiveness Ratio: ICER)を算出して検討することとなる。この指標は費用の増分を効果の増分で割り算するもので、従来の医薬品を新規の医薬品に置き換えた場合に、追加的に1単位多くの効果を得るためにいくらかかるかを表す。費用を算出する場合には該当する医薬品の費用だけでなく、関連して発生する費用、例えば診察や検査の費用、さらにその医薬品による治療によって将来削減するあるいは増加すると考えられる費用なども考慮する。また、効果の指標は疾患や治療法に応じて適切なものを選択することになるが、制度への応用などのために近年多く用いられているものが質調整生存年(Quality Adjusted Life Year: QALY)である。QALYは生存年数にQOL(Quality of Life)の値を掛けて得られる指標であり、QOLの値は0を死亡、1を完全な健康とする尺度で表される。生存年数とQOLの両方を考慮することにより、様々な疾患に用いることができる。日本でも医薬品・医療機器の一部について費用対効果の評価を行い、保険償還価格の調整をする制度が2019年度から実施されている。