近年の生物学的製剤導入に伴い、関節リウマチ(RA)の治療戦略は大きく進歩した。一方で、医療費の高騰が懸念され,RA患者のみならず社会的にも大きな負担となっている。また、慢性疾患であるRAでは、直接費用のみならず、間接費用による負担も大きな問題となる。今回、updateされたRA診療ガイドライン2020のなかでも、別章として「関節リウマチ治療における医療経済評価」が取り入れられた。その中で「医療費の分類」、「日本におけるRA医療費の現状」、「RA治療における高額な薬剤の医療経済的検討(費用対効果)の重要性」、「RA治療における医療経済的検討に関するエビデンス」、「RA治療における間接費用に関するエビデンス」、「RAにおけるバイオ後続品(バイオシミラー)について」をそれぞれ解説した。
当センターで施行中のIORRAコホートを用いた検討でも、RA患者の経済的負担額は年々増加傾向にあること、RAに関わる直接費用かつ間接費用は機能障害進行やQOL低下に伴い増大することが明らかとなった。すなわちRAを発症早期から積極的にコントロールをすることにより、身体機能障害進行を抑制できれば、生涯の医療費が軽減する可能性が示唆された。また、使用する薬剤の臨床的効果と経済的効率の両面を評価し、薬剤費用に見合った価値があるかどうか分析する学問がフェーマコエコノミクス(薬剤経済学)である。我々はRA治療における生物学的製剤の費用対効果の分析も行い、日本人RA 患者において、生物学的製剤を使用することは医療経済学的に、長期的には妥当であることが示された。生物学的製剤は高額であるが、必要なRA患者に適切に使用することにより、QOLが長期に維持され、就労を含めた社会生活を困難なく送ることができれば、社会的な視点からも有用であるという可能性が示唆された。さらに、バイオシミラーの開発・普及はRA医療費に良い影響を及ぼす可能性がある。
今回のシンポジウムでは、ガイドラインの作成に携わった立場から、IORRAデータを含めた国内外のエビデンスなどを用いてRA治療における医療経済評価について解説していきたい。