2019年4月に費用対効果評価の医療制度への活用が正式導入されたことをうけ、製薬・医療機器企業をはじめ医療現場でも費用対効果評価の関心は高まっている。その一方で、費用対効果評価の考え方は臨床試験をはじめ、従来親しんできた臨床エビデンスに関するものと大きく異なる。費用対効果評価とは、医療技術(医薬品、医療機器、および医療者等の技術)の有用性およびそれに関連する費用を定量化し、その医療技術が価値に見合った価格(value for money)かどうかを評価することである。これは、医療資源は元来有限であるため、効率的に活用し、多くの患者へのよりよい医療の提供を目指すべきという考えに基づくものである。費用対効果評価と並んで「医療技術評価(health technology assessment, HTA)」という表現もよく聞かれるが、こちらは「医療技術のその国の臨床現場への導入可能性を検討すること」であり、医療技術の品質、安全性、効能・効果、そして経済性(費用対効果)の4つの項目に関する包括的な評価を意味し、本来は費用対効果評価よりも広い範囲を定義する。HTAにおける、品質、安全性、効能・効果の評価では、その医療技術が使う価値、導入する価値があるかが評価され、経済性(費用対効果)の評価では、支払う価値、すなわちその価格を保険償還で認める価値があるかを評価する。
費用対効果評価はHTAにおける経済性の評価に活用されるだけではない。診療ガイドラインや地域・病院レベルにおけるフォーミュラリーの策定の際のエビデンスの一つとして用いられているケースもある。また、実臨床の中で生じるクリニカルクエスチョン(CQ)の有益な評価方法の一つにもなりうる。
本演題では、費用対効果評価の考え方を理解するための4つのキーワード「質調整生存年(Quality-adjusted life year, QALY)」「分析モデル」「増分費用効果比(Incremental cost-effectiveness ratio, ICER)」「感度分析」を中心に説明する。加えて、実臨床のCQに焦点をあてたいくつかの研究事例について、分析を実践するためのエッセンスを交えてご紹介させていただきたい。