患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome:PRO)は、「患者の回答について,臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である」と定義されている。日常臨床や医療政策における意思決定だけでなく,医薬品の承認申請にも活用されるようになり、特に、中枢神経領域やがん支持療法・緩和医療領域などの臨床試験においては、PROがしばしば臨床試験の主要評価項目として用いられている。PROの評価、データ収集方法としては、これまで紙媒体の調査票を用いていたものが、最近ではElectronic Patient-Reported Outcomes(ePRO)システムを用いて電子的に収集する方法に切り替わりつつある。しかしながら、ePROシステムを適切に設定、運用するための方法論、ノウハウ、経験は、十分に共有されているとは言えない状況がある。
そこで、本発表では、PROの評価尺度の選定、Validation、データ収集において考慮すべき事項について解説する。PROを用いた臨床試験の研究計画書(プロトコール)ガイドラインとして、2018年に「SPIRIT-PRO拡張版」(Calvert et al. JAMA, 2018)が公開されており、ガイドラインで推奨されているデータ収集、評価に関する項目について、解説を行う。SPIRIT-PRO拡張版は、2013年に臨床試験のプロトコールの完全性を高めるために策定された「SPIRIT声明」(Chan et al., 2013)をベースにPROに特化した項目が盛り込まれて開発された。11の拡張項目と5の補足説明項目によって構成され、PROが主要または重要な副次アウトカムである臨床試験プロトコールに含めるべき項目として推奨されている。日本語訳は、2020年に宮路らによって作成され、公開されている(薬理と治療 48巻10号と11号)。最後に、ePROシステムは、臨床研究のアウトカム収集のツールのみならず、日常診療においても、症状評価や管理システムとしての活用が期待されており、今後ePROシステムの使われ方がどのように発展していくかについて、期待と実装における課題をまとめたい。