がんを抱える患者は、がん自身による症状や治療に伴う有害事象などさまざまな苦痛を経験することが知られているため、治療の有効性以外にもきめ細かい対応が必要となる。しかしながら、近年、その大前提となる有害事象の正確な把握が有効に機能していないことがわかってきた。
本講演では、このような支持療法のアンメットニーズに対して、患者自身の主観的な体験を測定することの意味について考え、そしてそれをICTを利用して効率的にモニタリング(ePRO;electronic PRO、イープロ)すること、また電子カルテシステムと総合することによって医療従事者の診療判断に確実につなげることが、その解決の一助となる可能性について考えたい。
これまでの臨床現場では紙冊子による「症状日誌」を患者に記録させることによって、PROによる症状モニタリングが行なわれてきたが、実際には様々な限界があり、その結果として患者と医療者の認識ギャップが解消されていない現状がある。
その上で、ePROによるの臨床的な有用性に関する臨床研究の方向が近年増えており、そのエビデンスは蓄積されつつある。症状マネジメントや生活の質の改善、医師-患者コミュニケーションの改善、そして生存期間の延長に至るまで様々なアウトカムが測定されている。さらに、ほとんど全ての臨床情報が電子カルテに集約されている現在の診療現場では、患者から収集したePROデータを電子カルテで管理することは自然な流れであり、スムーズで効率的な診療となることは想像に難くない。
ePROで収集された情報が、電子カルテ内の治療情報と統合される事によって、ePROデータは医療従事者にとって新たな価値が付与され、有害事象に対するより深いアセスメントが可能になる。例えば、嘔気症状が増悪した時系列データを眺めてもそれ以上のアセスメントは生じ得ないが、これに抗がん剤の投与スケジュールや支持療法などデータが重なると、治療との因果関係や、減量や休薬によってどのように改善されたか、支持療法によって症状が改善したのかあるいは改善しなかったのか、などといったアセスメントが可能となるだろう。結果として医療従事者が患者の症状にアクセスする機会が高まり、症状に対する関心が喚起されることが期待される。現在、聖マリアンナ医科大学病院とその関連施設において、ePRO-電子カルテ統合システムの実装を実証する研究が行われている。