本邦において患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome: PRO)の定義は、FDAによる「患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である。(国際医薬経済・アウトカム研究学会 日本部会訳)」が広く知られるようになっている。この定義には続きがあり、臨床試験、特に適応申請という行間では、このPROを測定するための尺度、PRO尺度の性能は極めて重要で、更に近年はこのPROを電子的に収集するelectronic PRO: ePROが登場し、決して簡単ではない理論的な部分のある研究領域になっている。一方、海外で徐々に始まったPROの臨床応用は、本邦でも様々な試みが学会等で散見されるようになっている。
我々が関わっているePROを活用した研究事例の1つである、「補助化学療法後の乳がん患者を対象とした電子的患者報告アウトカムによる遷延性症状関連有害事象に関する観察研究」では、乳がん患者を対象として主にがん化学療法終了時にePROを導入し、遷延する有害事象を追跡調査している。従来であれば、がん化学療法終了後は症状の定期的な確認は困難になるが、ePROを活用することで来院がなくとも定期的に症状のフォローアップが可能となっている。また、別の事例として「免疫チェックポイント阻害薬を投与しているがん患者におけるePROを用いた免疫関連有害事象に関するレジストリ研究」では、外来での治療を中心に、免疫チェックポイント阻害薬投与時の有害事象とその対応について調査している。ePROによる有害事象の継時的変化を医療者と患者が共有し、診療で活用し始めている。臨床研究での活用も含め、今後更に様々なセッティングでPROの活用が広がると考えられる。
効率的で質の高いPROを活用した研究を実施するために、また医療でPROを活用するためには、ePROの導入は不可欠だろう。ePRO導入には課題も少なくないが、患者さんの声として集められる貴重な有害事象の情報を医薬品の安全性情報につなぐためには、PROの理論的な部分と臨床応用のバランスをとっていく必要がある。