切除不能消化器癌の化学療法において、HER2高発現の胃癌に対する抗HER2抗体Trastuzumab適応を皮切りに、様々な癌遺伝子Profileが治療方針決定に活用されるようになった。抗腫瘍薬の薬物動態においてはUGT1A1遺伝子多型よりIrinotecan投与量が考慮され、近年は膵癌におけるリポソーマル製剤Irinotecanの投与前にUGT1A1変異を必ず確認し用量調節している。また包括的がんゲノムプロファイリング検査(CGP)により、新たな遺伝子profileの化学療法への応用が試みられているのが現状である。
2021年胃癌ガイドライン改定により、HER2高発現は三次治療Trastuzumab deruxtecan適応判断にも使用されるようになった。ガイドライン発行後、HER2陰性胃癌の一次治療に抗PD-1抗体Nivolumab併用療法が承認され、臨床試験でCombined positive score (CPS)5以上の集団でOSおよびPFSが有意に延長したことから、PD-L1発現率も確認が望ましいとされている。大腸癌ガイドラインは2022年版が発行され、一次治療方針決定プロセスにRAS・BRAFに加えマイクロサテライト不安定性(MSI)検査が追加され、MSI-High大腸癌には一次治療でPembrolizumabを考慮することとなった。BRAF変異型大腸癌には、二次治療からBRAF阻害薬Encorafenib、MEK阻害薬Binimetinib、EGFR阻害薬Cetuximabの二剤/三剤併用療法が追加された。またCGPが必要であるが、NTRK融合遺伝子陽性大腸癌には二次治療以降でEntrectinibとLarotrectinibが追加された。2022年版発行後には、HER2高発現大腸癌に対するdual 抗HER2抗体療法Perutuzumab+Trastuzumab併用療法と、Tumor Mutation Burden (TMB)-High大腸癌に対するPembrolizumabが、二次治療以降で承認されている。
消化器癌の化学療法において、癌遺伝子プロファイルに基づく治療計画立案が以前より必要となっている現状を踏まえ、Pharmacogenomicsの視点も取り入れ消化器癌化学療法について概説する。