がん薬物療法において細胞傷害性抗癌剤に加え、分子標的治療薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬が臨床の現場で使用可能となり、薬物療法の選択肢は年々増加している。一方で、薬物療法の種類によって発現する有害事象や好発時期が異なることから、臨床の現場では各薬剤に起因する有害事象に関して十分な知識を有すること、薬物療法開始後は有害事象に関するモニタリングを実施し、有害事象の出現時には適切なマネージメントをすることが求められている。
 がん薬物療法に伴う有害事象の中でも、肺障害は時に重篤な呼吸不全を呈し、死に至り得る重篤な有害事象である。がん薬物療法に伴う肺障害の発症頻度や臨床経過は使用する薬剤ごとに異なり、患者側の因子も強く関与する。近年がん薬物療法の中で重要な役割を果たしている分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬に伴う肺障害は、抗癌剤治療に伴う肺障害とはそれぞれ異なる臨床経過を呈することが知られている。分子標的治療薬の中でも上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)では、致死率が高い肺障害の発症が報告されている。患者側の因子として、既存の肺に間質性肺炎があることが、EGFR-TKIによる薬剤性肺障害の危険因子として同定されており、間質性肺炎を合併する症例に対してはEGFR-TKIの投与は原則として推奨されない。一方、免疫チェックポイント阻害薬に関しては、免疫関連有害事象としての肺障害の出現に注意する必要がある。われわれのグループで実施した肺癌患者に免疫チェックポイント阻害薬の一種である抗programmed cell death 1(PD-1)抗体を使用した症例の前向き研究において、約15%の症例で肺障害を発症し、その約半数がグレード3以上の重症なものであった。本研究において、患者背景として低肺機能、呼吸困難を有する症例では抗PD-1抗体による肺障害の発症リスクが高いことが判明した。
 がん薬物療法実施時には、薬物療法の種類と患者背景より肺障害リスクを評価し、高リスク患者への投与は慎重に判断する必要がある。薬物療法開始後は、好発時期を中心に肺障害の出現をモニタリングし、肺障害出現時には、適切な呼吸管理ならびに日和見感染を含めた感染症等の鑑別を行い、時期を逸することなく薬剤中止の判断ならびに適切な治療の実施が求められる。本講演では、実際の症例も提示して、がん薬物療法に伴う肺障害について臨床医の立場から概説する。