免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の適応拡大に伴い、免疫系の活性化に伴う免疫関連有害事象(irAE)の報告も増加しているが、どのような患者で発症しやすいか、また詳細な発症機序は不明な点も多い。
我々は、複数の担癌モデルマウスを用いICIの薬効に及ぼす体内動態要因について解析を進めている(Kurino T, et al. J ImmunoTher Cancer, 2020)。これらの解析で、抗PD-L1抗体を複数回投与後に全個体が死亡する極めて重篤なアナフィラキシーを発症する担癌マウスを発見した。このアナフィラキシーは移植するがん細胞によって重症度は大きく異なり、まったく症状が出ない担癌マウスも存在した。従って、がん病態で変化する何らかの要因が抗PD-L1抗体に対するアナフィラキシー症状に影響していると考えられた。アナフィラキシーの発症率自体は決して高くはないが、発症すると危険度が高く、それゆえ発症機構の解明は進んでいない。そこで本アナフィラキシー発症機構の解明を目指した研究を進めた。
一般に薬剤性アナフィラキシーは抗薬物抗体(ADA)としてIgEが産生し、Fcε受容体を介して肥満細胞などが認識しケミカルメディエーターとしてヒスタミンを産生することで発症する。しかし本アナフィラキシーは、投与した抗PD-L1抗体に対して、ADAとしてIgGが産生していた。マウスでは抗薬物IgG抗体がFcγ受容体を介し骨髄系細胞が認識し血小板活性化因子(PAF)を産生するあらたな経路が報告されており、近年ヒトでも明らかになりつつある。アナフィラキシー発症マウスでは血中PAF量が増加し、PAF受容体アンタゴニストはアナフィラキシー症状を抑制した。
またアナフィラキシー重症度はマウスの脾臓肥大とよく相関し、肥大脾臓では骨髄系細胞が顕著に増加していた。単離骨髄系細胞の解析から、好中球とマクロファージが抗薬物IgG抗体に応答してPAFを産生した。また担癌マウスでこれらの細胞を除去すると、アナフィラキシーが抑制された。
以上より、がん病態で増加する好中球やマクロファージがICIに対するアナフィラキシーを増悪させる要因であった。本講演では、これらアナフィラキシー発症メカニズムや、薬効と相関するirAEとの違いなども含めて議論したい