これまでわが国では不眠症の治療薬としてベンゾジアゼピン受容体作動薬が診療科を問わず汎用されており、諸外国と比較してもその処方量が多いことが知られている。近年は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期・多剤服用により、認知機能の悪化、転倒による骨折のリスクの増大、依存形成など、様々な問題点が指摘されている。2014年に睡眠薬の適正使用・休薬ガイドラインが公表され、睡眠薬を内服中で症状が安定している患者は、睡眠薬の休薬を目指していくことが望ましいとする「出口戦略」が提唱されるようになった。しかしながら現状では臨床現場において、睡眠薬の出口戦略が広く実装化されているとは言い難い状況である。
不眠症診療においてベンゾジアゼピン受容体作動薬の代替治療法は徐々に普及しており、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬などの新たな作用機序を有する薬剤が登場しており、不眠に対する認知行動療法の有用性が広く知られるようになっている。しかしながら、近年のレセプトデータベース研究結果からも、未だベンゾジアゼピン受容体作動薬の多剤・長期処方の問題は解決していないことが明らかになっている。また、我が国における不眠に対する認知行動療法は保険収載もされておらず、十分に普及していないため、多くの診療現場からのアクセスは容易ではない現状がある。
このような状況から、我が国における睡眠薬治療の適正化や出口戦略の実装化のために、さらに踏み込んで実臨床で実装可能な明確な指針の作成が求められている。そのため我々は、厚生労働科学研究費事業としてベンゾジアゼピン受容体作動薬の適正使用ならびに出口戦略の指針を示す取り組みを行っている。本シンポジウムにおいては不眠症診療における睡眠薬の適正使用や出口戦略の実装化の取り組みを紹介して、今後我々が目指すべき不眠症治療について議論したい。