薬物相互作用には,薬物動態学的相互作用と薬力学的相互作用がある。薬物動態学的相互作用は,主に薬物代謝過において,薬物同士が影響を受け,血中濃度が変動することによって起こるものを指す。薬物動態学的相互作用の多くは,前節で述べた代謝酵素であるCYP450 酵素の基質や阻害,誘導と関連して生じる。他にもグルクロン酸抱合を行う,UDP グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)や,フラピン含有モノオキシゲナーゼも薬物動態学的相互作用に関連しているが,CYP450 に比して十分なデータがない。代謝過程における相互作用以外にも,小腸や肝臓,血液脳関門や血液胎盤関門に発現し,局所の薬物濃度を制御する薬物トランスポーターを介した相互作用に関する知見も増えつつある。薬力学的相互作用は,血中濃度には変化はないが,受容体における直接的な競合(作用部位での同じ作用や,反する作用)や,同じ神経伝達路による増強作用や拮抗作用などによって,効果の増強や減弱が起こることを指す。すべての治療薬の相互作用を覚えておくのは現実的ではないため,web 上の薬物相互作用検索の情報データベースを利用することが望ましい。有料のものでは Lexicomp (https://apps. apple.com/jp/app/lexicomp/id313401238) や,IBM が提供しているMicromedex (https://apps.apple.com/jp/app/ibm-micromedex-druginteract/id666032615)等は,スマートフォンやタブレットのアプリもあり便利である。無料のものでは Medscape(https://reference.medscape.com/drug-interactionchecker)やEpocrates (https://online.epocrates.com/interaction-check)等があるので,有効に利用したい。原則として、薬物相互作用のある多剤併用は避けるべきである。どうしても併用せざるを得ない場合は薬物相互作用の起こりうる組み合わせは避けるべきである。本シンポジウムではどのように薬物相互作用が発生するのかを解説しながら、スマートな薬物療法を考えていきたい。